あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「お二人共大丈夫ですか!?」
向かい合わせになっている空蒼達に対してそんな声が投げかけられた。
それと同時に土方さんの後ろから、心配そうな顔をした総司がひょこっと覗き込んできた。
「総司、もう少しはもっと周りをみろ。反応するのが遅い」
「えぇ…?俺だって同じくらいに反応しましたよう!」
「鍛錬が足りん」
「えぇー」
土方歳三こと土方さんは沖田総司、総司に軽く叱りだした。どうやら、先ほどの空蒼を狙った人物に対してもっと注意をしとけと言う事なのだろう。
そんな事を考えながら、血の匂いが少しきついのか空蒼の顔が引きつる。
それと同時に何故だか二人のやり取りを見てると心が和らぐ感じがした。
「それよりお前……」
「…?」
空蒼を見て言葉を止める土方さん。
「…やっぱり綺麗な目をしているな」
「え…?」
「本当だ!青色?に金…黄色?ですか?初めて見ました!綺麗ですねぇ!」
そう言う総司は、目をキラキラさせながら空蒼の顔を覗き込んでくる。
「っ…!!」
いつの間にかフードが肩に落ちていたのか、目が丸見えになっていた。
(や、やば!!)
後ろに仰け反りながら空蒼は急いでフードを頭に被せる。
「あぁ!勿体ない…」
しゅんとなる総司の顔を何故だか可愛いと思ってしまう。
さっきから総司の反応がいちいち大げさすぎではないだろうか。
「おい総司、無理強いするな」
そう言いながら総司の頭を拳でグリグリする土方さん。
「ちょっ、痛いですよう土方さん!」
そう言いながらも、総司の顔はとても微笑んでいるように見えた。
(…これがあの、新選組?)
そして、ふと空蒼は周りを見た。
するとさっきより減った野次馬の中からぽつりと声が聞こえた。
「あれが鬼の副長やって」
「うわぁ怖い怖い、早くここから離れるで」
「そうやな」
(……。)
ぞろぞろとその言葉が合図かのように、野次馬達はこの場を離れていく。
本当に都合のいい奴らだと思いながら、空蒼はそれから二人に視線を戻した。
「…行くぞ」
「……?」
振り返った空蒼に土方さんがそう言ってきた。
(…行く?どこに?)
空蒼は首を傾げる。
「腹減ってんだろ行くぞ」
「っ…」
さっきの和むような雰囲気とは打って変わって、キリッとなった土方さんの表情。
それなのに怖いと思わないのは何故だろう。
「おい総司、ここの始末は他の隊士達に任せとけ、俺らはこいつと一緒に屯所に戻るぞ」
「了解しました〜」
そう言うと、表情が一瞬にして真剣な顔に変わり、てきぱきと近くに居た隊士達に指示を出し始めた。
あれがあの沖田総司なのかと思うと、空蒼はなんだか感動してしまう。
彼らの仕事ぶりをこの目で見れるとはどれだけ凄い事なのだろう。
その様子を少し観察した後、空蒼は土方さんに視線を移した。
「ん?どうした?あぁ…お前に拒否権は無い。大人しく付いてこい」
「……。」
(多分紛れもなくあの鬼の副長土方歳三なんだろうな…)
本当は行きたくないのにこの空腹感には抗えないのは確かだ。だが、新選組屯所に行くのは少し躊躇ってしまう。
付いて行ったらどうなるんだろうか。
行きたくないけど行きたい、そんな矛盾の考えが空蒼の頭を支配する。