あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
(……。)
空蒼はフードをギュッと握りしめ下を向いた。
「…朔雷さん?」
「うわっ…!?」
下を向いた直後、総司が空蒼を覗き込むようにして見つめてきた。
それにびっくりした空蒼は後ろに後ずさる。
―ドクンッドクンッドクンッ
今度は逆の意味で心臓の音が激しく波打つ。
こうも何回も驚いていると心臓が持たない気がする。
「ご、ごめんなさい!びっくりさせるつもりじゃなかったんですけど…大人しく付いてくれば何もしませんって」
そう言いながらニコリと微笑む総司。
「……。」
目が笑っていない。
一見、優しい言葉を言われていると錯覚しそうになるのだが、そこはちゃんと別けているようだ。
多少は砕けた言い方になっていたのも束の間、やはり新選組は侮れないと心の底から思った。
そして、空蒼はやっぱり怪しい人で部外者。
少しでも二人のやり取りを見て和んでいた空蒼は自分が馬鹿だったと顔を歪めた。
目の色が綺麗とか言われて少し浮かれていたのかもしれない。目の事を良い様に思う人なんて一人もいない、今もそしてこれからも。
「総司、お前はぐいぐい行き過ぎなんだよ、少しは自重しろ」
「だって〜」
「…。」
空蒼はもう人を信じる事をやめたのだ。
それは過去だろうと何だろうとここでも変わらない。
「おいそろそろ行くぞ、付いて来い」
無表情で空蒼にそう言った土方さんは、まばらになった残り少ない野次馬の間を通り抜けて行く。
総司より低めの背だがスラリとした身長に、黒髪を後ろに一本に結んでまとめている彼は、普通にイケメンの類に入るのではないだろうか。顔も十分過ぎるほど整った顔であり、現代でも通用するレベルの顔の良さ。
写真でも見た事はあったが、その面影が残っているのがよく分かる。
「ほら朔雷さんも行きますよ、付い来て下さい」
笑顔でそう言う総司の顔はどこか幼さが残っている。
(…新選組の名を与えられたばかりという事は文久三年…じゃあ総司はだいたい二十歳ってところ?あたしと二歳くらいしか変わらないのか…)
空蒼は総司の顔をじっと見つめる。
「…ん?俺の顔に何か付いてます?」
はて?と首を傾げる総司。
その様子を見て可愛いと思ってしまうのはいけないことだろうか。
「……いや」
ぽつりと気まずい顔で呟く。
「そうですか?なら早く行きますよ、土方さん歩くの早いので追い付けなくなります」
(…新選組…屯所…)
本当に行きたくはないけど、今日の寝床と食料は確保しておきたい。
そろそろ日は暮れるだろうし、ここが過去の幕末の時代と知った今、その辺で野宿も危険だろう。
(ここはとりあえずこの人達について行って、腹ごしらえしたら先の事を考えようか?
ここにいても埒が明かないし、一日くらいならお邪魔してもきっと大丈夫だよね…?)
「…分かり、ました」
消え入りそうな声で総司の言葉に了承した。
「では行きましょう」
ニコッと笑顔でそう言ってくる総司。
この笑顔に騙されちゃいけない。
空蒼はもう二度と誰も信じない。
そう心の中で決意しながら、総司の後を付いて行った。