あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
第一話
遠くの方から風の音で何かが揺れる音が聞こえる。
その音を聞きながら、ふさふさとした冷たい何かが自分の背中や腕、足に当たっていた。
「っ……」
そして少しの寒さに自然と目が開いた。
「……。」
眩しさに目を細めながらも、空蒼は目に飛び込んできたものに考え込む。
とても広い空、それから立派に空に向かって延びている木。
空蒼はゆっくり身体を起こした。
木陰で眠っていたのか、起き上がるとちょうど自分の背中に木が当たったので、丁度いいやと思いそれに寄りかかる。
とりあえずその場に胡座をかいて頭の中を整理することにした。
ふと自分の着ている服に目をやると一瞬眉毛がぴくりと動いた。
それもそのはず、寝た時にはパジャマを着ていたはずなのに、今の格好は何処にでもある白いパーカーを着て、その上には運動部で着るような黒のウィンドブレーカーを着ていた。
下もそのウィブレのズボン。
はて?と思ったが考えるのも面倒くさいので、とりあえず辺りを見渡した。
今はちょうどお昼過ぎと言ったところだろうか。太陽が顔を出していた。
ただ、少し低い位置に太陽はあるので、季節は春か秋だろうか。たまに吹く風が少し肌寒いので、暖かいウィンブレを着ていても暑いとは思わなかった。
それにここは丘の上なのか、街を一望出来る。
崖の上にある様で、人が崖に落ちないように軽く木で柵が打ち込まれてあった。
胡座をかくのをやめ立ち上がると、その柵に手をかけてその下に広がる街に目をやる。
「……。」
それを見た空蒼は首を傾げた。
木造の平屋の家が沢山連なっていて、それに二階以上の家は見当たらない。
見慣れた車や自転車、電柱なども以ての外、いくら探しても自分の目には映らなかった。
目に付くものと言えば、着物を一枚着ている者や、綺麗に着飾っている女の人、見たこともない四角い箱?みたいなのを二人で運んでいる者など、自分の知識を集めてもこの状況が飲み込めなかった。
「あれは……駕籠?」
目が覚めてからの第一声がこれなのはどうかと思うが、元々口数の少ない空蒼からしたらいつもの事。
学校の教科書で見た事のあるあの四角い箱。
自分の知識が正しければ江戸時代とかによく使われていた人を乗せて運ぶ、現代で言えば車の様なもの。
(……現代にも駕籠なんて存在したっけ?)
車という便利なものがあるのに、わざわざ人の手で運ぶ駕籠は果たして今でもあるのか。
それに電柱が一つも無いのが気にかかる。
今でこそテレビという便利な物があるのに、その生命線とも言える電柱が無いのはおかしな事だ。
(…あ、でも何処かの観光地では、昔ながらの景観を維持したいという理由で電柱を地中に埋めたって聞いたような…)
空蒼は白い腕を組みながら顎をさする。
ここは何処かの観光地なのか、それともまた違う所なのかよく分からないが、ここに居ても埒が明かないので、空蒼はそこに向かう事にした。
が、その前に。
肩より下くらいまで伸びている黒髪を一つにまとめて、青色のゴムで上の方で結ぶ。
その上からさらに"目の色"をできるだけ見られないように、パーカーのフードで隠すように深く被った。