あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「……理由が無いと助けてはいけないんですか?」
土方さん達に言える理由ではなかったので、とりあえず言葉を濁す。
それにいちいちこの人は助けるメリットがあるとかないとか考える方がおかしいと思う。
「……。」
空蒼の言葉に何も言ってこない。
確かに、中にはいかがわしい理由で助ける人もいるかもしれない。
でも、そんな人達よりも何の理由も無く助ける人の方が多い事を願いたい。
「あははははは!」
(…?)
すると突然、右側から笑い声が聞こえてきた。
右を向くと、総司が口を開けて笑っていた。
それを見て空蒼はふと、あぁこれがこの人の本当の笑顔なんだと心の中で思った。
「土方さん、これは一本取られましたね」
笑い終えるとすぐに普通の表情に戻る総司。
切り替えの速さが素晴らしい。
「…総司、てめぇ…」
笑われた事に苛立ったのか、左からドスの効いた声が聞こえてきた。
目が合ったらヤバそうなので聞かなかった事にする。
「本当の事じゃないですか〜…それに俺らの場合、仕事の範疇でしか人を助けない事に変わりは無いので、人様にどうこう言えないですよ」
「……え?」
「え…?」
その総司の遠慮がちな言葉に疑問を抱いた時、うっかり口を滑らしてしまった。
「…何か?」
総司が聞き返してきた。
(ど、どうしよう…なんて答えれば…)
総司は仕事の範疇でしか人を助けないと言ったが、本当にそうだろうか。
この人達がそんな場面に出くわした時、どう行動するかなんて空蒼には見え透いている。
なのにどうして総司はそんな事を言うんだろう。
「……本当に…仕事の範疇でしか助けないのですか?」
立派な信念を持っている人がそんな薄情な人なわけがない。
新選組の事が好きな自分が言うのだ、そんなはず、ない。
「…はい。俺達は今でこそ新選組と言う立派な名を貰うことが出来ましたが、それよりも前はしがないただの壬生狼だったんですよ…功績を残そうと必死になりすぎて、安売りするほど暇ではなかったのです」
「……。」
一理あるかもしれない。
どうして新選組が、"新選組"という名を貰う事ができたのか。
新選組の前は壬生浪士組という名で活動していた彼らだったが、京都見廻組と違って非正規組織でもあった。
その為、お金等も十分に足りる訳がなく、新選組になるまでは色々と大変だったみたいだ。
現代で言う代表的な問題児芹沢鴨、新見錦やその他の水戸一派にも悩んでいたと聞く。
評判を上げたい試衛館派にとっては頭の痛い話だったに違いない。
それとは反対に評判が悪くなっていくとあれば見過ごすことも出来ないし、かと言って強くも言えなかっただろう。
無我夢中でそれにしがみつきながらやってきた日々は決して楽しい事だけではなかっただろう、だがそれは全て無駄では無いはずだ。
壬生浪士組時代に出来なかったのなら今やればいいだけだ。
それに、例え彼らがこの仕事についていなかったとしても、きっとさっきみたいな出来事を見逃す事はしないと断言出来る。
だって…。