あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…昔は暇じゃなかったとしても、今ならよそ見くらいは出来るんじゃありませんか?」
空蒼は彼らの信念を信じているから。
「…今、ですか?」
「はい…」
今なら可能ではないだろうか。
水戸一派はもう居ないはず。
新選組となった今、試衛館以来の仲間が中心となって新選組を動かしていく。少しのよそ見なら仲間は許してくれるはずだ。
空蒼は総司を見つめる。
「……面白い事言いますね」
「……。」
一瞬、総司の瞳の奥に、子供の悪戯かのような光が見えた気がした。
助けるのには勇気がいる。
でもそんなに勇気が無くても、彼らは簡単に助けるんだろう。
「…俺らは命を預けてんだ、そう易々と命を売れるか」
すると今まで黙って聞いていたであろう土方さんがそう言ってきた。
土方さんの方を向くと、さっきより少し眉毛が上がっているように見えるのは気の所為だろうか。
「…命が惜しけりゃそう簡単に首を突っ込まない事だな」
「……。」
そう言ったと思ったら、ふいっと空蒼は反対方向を向いてしまった。
(本当に、そうだろうか…)
前を見据えながら考える。
土方さんはきっとこう言いたいんだろう。
命を預けている自分達からしたら、何でもかんでも首を突っ込む事はしない、と。
でも本当に?新選組は京の町の治安維持を任されている部隊だ。現代で言えば警察の原型ともあろう人達がなんでそんな事言うの?
(…あたしには…理解出来ない…)
なら聞くしかない。
「……困っている人を助けては何故いけないのですか?」
その言葉の意味を理解したい。
どうしてだろう、普段ならもうこれで終わりなのに。新選組の事になると空蒼はいつもより少し口数が増える。
二人は今何を考えているのだろう。
「……お前は、困っている人が居たら誰にでも手を差し伸べるのか?」
土方さんの顔を見つめながら言葉に耳を傾ける。
「はい…」
空蒼からしたら見て見ぬふりは出来ないだろう。
人と関わるのは苦手だと言うが、困っている人がいたら助けない訳にはいかない、それが朔雷空蒼という人物なのだ。一言で言えば、お人好しというのだろう。変な正義感を持っている。
「それで?助けたら”必ず””お互い”が助かるのか?」
「……??」
空蒼はその言葉に顔をしかめる。
(何言ってるの?助けたのに助かるのか?って…言っている意味が分からないんだけど)
助けを求めている人を助けるのに、どうして助かるのかって聞くんだろうか。
空蒼は喧嘩を売るように土方さんを睨み付ける。
それを知ってから知らずか話を続ける土方さん。
「…助けを求める”その人”が必ずしも”善”だとは限らねぇんじゃねぇか?」
「……。」