あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
(助けを求めるその人が、必ずしも善だとは限らない?)
「…何でもかんでもただ助ければいいって訳じゃねえって事だよ」
「……。」
そんな事を言われても空蒼は全然分からないと言う顔をしている。
(だから結局どういう事なんだよ…全然分からないんだけど…)
どうして助けを求めている人を善だの悪だの決め付けなければいけない?
助けを求めている人を見て見ぬふり出来ないのも、手を差し伸べるのも、それは助けを求めているからであって、そこに善悪なんて存在しないはずではないのだろうか。
助けを求めているから助ける。これになんの躊躇いがある?
空蒼にはとても理解しがたい話だ。
「……あ、見えてきましたね」
(……?)
考え込んでいると、隣から総司の声が聞こえてきた。
その声に顔を上げ前を向いた。
「…。」
見た事のある黒い外壁。立派な門構えが迫力を醸し出している。
さっきの騒動の場所から歩いて十分程。
門構えの壁に、”会津藩松平肥後守御預 新選組屯所”と立派な木札が立て掛けられた、新選組屯所に到着した。
現代の言葉で言えば、旧前川邸だ。
空蒼は、その門構えの壁に掛けられている木札の前で止まった。
(……松平肥後守御預、新選組…屯所…)
これで疑う理由も無い。ここは紛れもなく過去なのだ。
空蒼のいた時代で見ていたモノが、今目の前に存在している。そんな事実に動揺を隠せない。
「何してる、行くぞ」
名前が書いてある木札の前に立っていると、横からそう言われた。土方さんが眉間に皺を寄せながら空蒼を見ていた。
(…土方、歳三)
実感が湧かない。ここが過去なのだと、そして目の前にいるのがあの有名な土方歳三だという事にも。
どういう顔して話せばいいだろうか。
大好きな新選組に会えたのにどうも釈然としない。嬉しいはずなのに胸が痛む。
これから先の新選組の末路を思うと、涙が出そうになる。
(……。)
気が付くと両手がガタガタ震えていた。両手は小刻みに震え身体まで震えそうになっている。
新選組をネット調べ、最後まで読み終えた時には涙を流していたんだ。字を見ているだけなのに、色々な感情が頭の中を支配していた。そんなんで涙を流す自分が、実際新選組に会ったらどうなるかなんて、考えなくても分かる。
(あたしはここに居てはダメ。新選組が好きだからこそ一緒には居られない…そんな勇気、あたしには無い…)
「…おい!」
「っ……」
その声にハッと我に返る。
声のした方を向くと、さっきよりも眉間に皺を寄せている土方さんがいた。
「いい加減にしろ、さっさと中に入れ」
「……。」
怒りがあらわになっている土方さんに、軽く頷いた。
この調子で早くここを去らなければ。