あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…おい、何をしてるんだ」
衝撃のあった顔面の、特に鼻を優しくさする。
(……急に止まるなよ)
土方さんの後ろを歩いていたのだが、考え事をしていたので急に止まったその行動に対処出来たなかったみたい。
そのお陰で空蒼は、土方さんの背中に思い切り顔面からダイブをしたらしい。
――スゥー
「入れ」
そんな事にお構い無し。襖を開けられ中に入れと言ってきた。
空蒼は大人しく部屋の中に入る。
その瞬間、畳の独特の匂いが鼻をかすめた。
きょろきょろと部屋の中を見渡した感じ、とても雑風景といった印象だ。箪笥に文机、本棚など必要最低限のものしか置いていない。
部屋自体もそんなに広くなく十畳〜十二畳程だろうか。
「…突っ立ってねぇで奥に座れ」
さっきから小言が多いなと思いながらもそれに従う。
空蒼は入口の襖が見える位置、言われた通り部屋の奥に腰を下ろした。
胡座をかきながらパッと土方さんを見ると、襖を開けた状態のまま廊下の向こうを見つめている。
「ちっ…総司のやついつまで時間かかってんだ」
(……そういや、いつの間にか総司の姿がなかったね?)
土方さんのその言葉に総司の存在を思い出した。土方さんに何か言付けを頼まれて居なくなったんだろう。
黙っていればそのままイケメンなのだがなんか残念だ。
自分から何かを頼んでおいて文句とは、土方さんは姑か何かか?こんな姑は絶対嫌だと心の中で思う。
「…そういやお前、この中くらいその変なもの下ろせ」
するとぶつぶつ言っていた土方さんが、廊下を見つめながらそう言ってきた。
(…フードの事?)
「…これですか?」
空蒼はフードを指さしながら聞いてみる。
チラッとこっちを見たかと思ったらすぐにまた廊下に視線を戻す土方さん。
「…あぁ」
「嫌です」
なので即答してやった。
人と話す時は目を見て話せと言われなかったのだろうか。
(…いや…それはあたしが言える立場じゃない…)
フードを被って目を合わせないまま話してきたあたしがそんな事言えない。
久しぶりに目を合わせて話したから、浮かれていたのかもしれない。気をつけないと。
「……どうしてそんなに目を嫌がる?」
そんな疑問が浮かんだのかそう聞かれた。
無表情のまま、何を思っているか分からないそんな目で。
(…どうして?)
はぁ…とため息をつく。
そして空蒼はキッと目を細め、土方さんを睨んだ。
よくそんな無神経な事を本人に聞けるものだ。空蒼がどんな思いでいるかも知らないだろうに。いや、知られたくもない。
空蒼は無言のまま、ふいっと土方さんから視線を逸らした。
そんな事を聞いたってどうすることも出来ないはずなのだが、土方さんは空蒼の領域に踏み込んでくる。
空蒼は膝の上に組んだ手をギュッと握り締める。
(…早く、ここから居なくなりたい…)