あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…覚えが無いわけないですよね?あの時俺の姿を見た瞬間、刀を構えるその姿に違和感はありませんでした。剣の腕に覚えのある人の動きでしたよ」
総司のその確信めいた口調と表情に、空蒼は顔をしかめる。
どうしてこんなにも褒められているのか分からないが、本当に剣道なんてやった事がない。
強いて言うなら、よく気晴らしに家の物置に眠っていた竹刀で、身体を動かしていたくらいだろうか。
竹刀は木刀と違って軽く扱いやすいので、空蒼はその竹刀でよく素振りをしていた。
(まぁそれと…憧れで三段突きとか土方さんの得意な突きとかもやってたけど…それくらいしか本当にしてないんだけどな…)
どう答えればいいのか分からずとりあえず何も言わない。
「…おい、答えないのなら答えるしかない状況にするだけだが?」
冗談を言っているようには見えない土方さんの表情。睨みつけられ、これはもはや脅しと一緒だ。
その雰囲気に情けというものなど存在しない。
空蒼が吐かなければ、それ相応の手段をするという意味だ。土方さんの事だから酷いことをするんだろう。それに空蒼が耐えられるわけが無い。
「それから、本当ならその頭に被ってるものも嫌だろうが何だろうが毟り取るんだ。それをしないだけ有難く思うなら正直に話せ」
ドスの効いた声がこの部屋を満たす。
眉間にシワがより、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だ。
きっとこれは空蒼が真実を言ったところで、彼らの望んでいる答えを言わなきゃ納得しないだろう。
でも、そうでもしないとそろそろ土方さんの堪忍袋の緒がキレそうなので、空蒼も覚悟を決める。
(なるべく彼らの意向に沿った発言をしなければ…)
「…少しだけ」
「あぁ?」
目線を畳に向けながらぽつりと呟く。
「少しだけ、竹刀を扱ったことなら…あります」
消え入りそうな声でなんとか言葉を紡ぐ。
空蒼が何より怖いのは、この場でフードを取ること。ただそれだけだ。
「…少し?少しだけしか扱ってねぇのに、総司があそこまで言うわけねぇだろ」
「……?」
総司?どうしてそこで彼の名前が出てくるんだろう。今は関係ないのではないだろうか。
それに空蒼はちゃんと真実を話した。それなのにどうして否定されなければならないのか、どうして人の話を聞いてくれないんだろう。
と言うか、どうしてそこまで剣の扱いについてそこまで聞いてくるのかが空蒼には分からない。
すぐに追い出す存在にそんな事を聞いて何になるんだろうか。ただ一つ言うのなら、そんなに突っかかってくるなら、どんな答えが欲しいのか先に言ってほしい。
「独学でその腕前なんですか?」
総司は冷静な表情で空蒼に聞いてきた。
チラッと総司を見てすぐに畳に視線を移す。
「…そうですけど、何かいけないんでしょか」
これって褒めてるんだろうか、それにしては視線が痛い。まるで尋問をされているみたいだ。