あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした





「…そうですか…それなら一回は手合わせしたいものですね」

その言葉に総司の方を向くと、ニコッと微笑んでいた。
だけど、その目は全然笑っていないように空には見えた。その目の中に何かが宿っているように見えたから。

「……。」

総司とは絶対に手合わせなんてしたくないと心の中で強く思う。
あの剣客の沖田総司と手合わせだなんて、一回では絶対終わらないだろう。

(どうしてあたしが剣術が上手いと思われたのか知らないけど、素人同然のあたしと手合わせなんてしたら、あたしが死ぬ)

「どこかの門下に入ってるとかは絶対に無いんだな?」

その声に土方さんを見ると、探るような目付きをしていた。

「はい…」

空蒼は土方さんの目を見つめながらそう答えた。
嘘は付いていないと目で訴えかけるかのように。

「そうか」

納得したのかそう一言呟いた。

(納得してくれた?それならまぁ良いんだけど、最後の方は意外とすんなり受け入れてくれたみたいで良かった…)

どうしてそんなに聞いてくるのかは知らないが、納得してくれたならそれでいい。
嘘は付いていないのだから。

「…もしかしたら君は、才能があるのかもしれないね」

その声に視線を向けると、今まで黙って聞いていた近藤さんが、空蒼を見つめながらそう言ってきた。とても穏やかな顔をしている。

(…って言うか才能?え、何の?)

空蒼がポカーンとしているとそれを察したのか、近藤さんが付け加えてくれた。

「独学だけで、あそこまで総司に褒められるなんて、剣の才能があるって事じゃないのかな?」

土方さんの雰囲気とは正反対な、ほわほわしたその雰囲気に空蒼は何故だか戸惑ってしまう。
ニカッと微笑む近藤さんを見て、どうして皆から慕われるのか、何となく分かった気がした。

「ち、違いますよう近藤先生!俺は褒めてなんていません!」

すると総司が近藤さんの言った言葉に反論してきた。
照れてる様な、慌てる様な素振りをしながら、近藤さんに意見を言う。

「俺はただ…俺を視界に捉えた時の反応と、その剣の構え方が素人には見えなかったので…ただそれだけです!」

そんなに慌てなくていいだろうに。
空蒼も確かに褒められた?とは思ったけど、自惚れるなんて事はないから安心してもらいたい。

(それにあたしに剣の才能があるなんて絶対にそんな事はない。運動神経は良い方だけど、剣道なんてやって来なかったあたしからしたら、それを信じる方が無理な話だ)

「そうか?ならそういう事にしておこう」

ニヤニヤと怪しく微笑む近藤さんに、総司は唇を尖らせてむくれている。

(え?微笑ましい図?)

なんかここだけ切り取って額に入れたい。と、変な事を考える。

「はぁ…近藤さん、今は冗談言ってる場合じゃねぇんだ」

その和む雰囲気を壊すかのような声が、目の前から聞こえてきた。目の前に視線を向けると、まだ睨んでいる。
飽きないというかなんと言うか、きっとこれが怪しい人に対する態度なんだろうけど、なんかいたたまれない。

空蒼が彼らに何かしただろうか。




< 28 / 123 >

この作品をシェア

pagetop