あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…そうですか…それなら一回は手合わせしたいものですね」
その言葉に総司の方を向くと、ニコッと微笑んでいた。
だけど、その目は全然笑っていないように空には見えた。その目の中に何かが宿っているように見えたから。
「……。」
総司とは絶対に手合わせなんてしたくないと心の中で強く思う。
あの剣客の沖田総司と手合わせだなんて、一回では絶対終わらないだろう。
(どうしてあたしが剣術が上手いと思われたのか知らないけど、素人同然のあたしと手合わせなんてしたら、あたしが死ぬ)
「どこかの門下に入ってるとかは絶対に無いんだな?」
その声に土方さんを見ると、探るような目付きをしていた。
「はい…」
空蒼は土方さんの目を見つめながらそう答えた。
嘘は付いていないと目で訴えかけるかのように。
「そうか」
納得したのかそう一言呟いた。
(納得してくれた?それならまぁ良いんだけど、最後の方は意外とすんなり受け入れてくれたみたいで良かった…)
どうしてそんなに聞いてくるのかは知らないが、納得してくれたならそれでいい。
嘘は付いていないのだから。
「…もしかしたら君は、才能があるのかもしれないね」
その声に視線を向けると、今まで黙って聞いていた近藤さんが、空蒼を見つめながらそう言ってきた。とても穏やかな顔をしている。
(…って言うか才能?え、何の?)
空蒼がポカーンとしているとそれを察したのか、近藤さんが付け加えてくれた。
「独学だけで、あそこまで総司に褒められるなんて、剣の才能があるって事じゃないのかな?」
土方さんの雰囲気とは正反対な、ほわほわしたその雰囲気に空蒼は何故だか戸惑ってしまう。
ニカッと微笑む近藤さんを見て、どうして皆から慕われるのか、何となく分かった気がした。
「ち、違いますよう近藤先生!俺は褒めてなんていません!」
すると総司が近藤さんの言った言葉に反論してきた。
照れてる様な、慌てる様な素振りをしながら、近藤さんに意見を言う。
「俺はただ…俺を視界に捉えた時の反応と、その剣の構え方が素人には見えなかったので…ただそれだけです!」
そんなに慌てなくていいだろうに。
空蒼も確かに褒められた?とは思ったけど、自惚れるなんて事はないから安心してもらいたい。
(それにあたしに剣の才能があるなんて絶対にそんな事はない。運動神経は良い方だけど、剣道なんてやって来なかったあたしからしたら、それを信じる方が無理な話だ)
「そうか?ならそういう事にしておこう」
ニヤニヤと怪しく微笑む近藤さんに、総司は唇を尖らせてむくれている。
(え?微笑ましい図?)
なんかここだけ切り取って額に入れたい。と、変な事を考える。
「はぁ…近藤さん、今は冗談言ってる場合じゃねぇんだ」
その和む雰囲気を壊すかのような声が、目の前から聞こえてきた。目の前に視線を向けると、まだ睨んでいる。
飽きないというかなんと言うか、きっとこれが怪しい人に対する態度なんだろうけど、なんかいたたまれない。
空蒼が彼らに何かしただろうか。