あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「すまんすまん、続けてくれトシ」
ゴホンッと咳払いをした近藤さんは、土方さんにそうお願いをした。
「あぁ……朔雷空蒼、お前はどのような目的で京に来たんだ?」
睨みを効かせ続けている土方さんを見つめながら、どう答えようか考える。
どうして?そんなの空蒼が知りたい。
眠りについて、起きたらこの時代にタイムスリップしてたなんて、口が裂けても言えない。
たとえ言ったとしても、信じてくれない事くらい空蒼にだって分かる。
(あたしだってその立場なら信じないのだから…)
なので言い訳らしい言い訳を言ってみることにした。
「…観光です」
「……観光?」
空蒼のその言葉に怪訝そうな表情をする土方さん。
(やっぱり…この言い訳はキツいか?)
空蒼は動揺を悟られないように平静を保つ。
「じゃあその変な服装はなんだ?」
「……これですか?」
疑わしい目をしながらも違う質問をしてくるって事は、信じてくれたのか?
(それにしても変な服装とは…あたしからしたら普通の格好なんだけど…)
空蒼は自分が着ている服装に目をやる。
黒い上下のウィンドブレーカーに、上はその下に白いパーカーを着ている。でもまぁ、この時代の人からしたら変な服装に変わりは無いのか。
じろじろ見てくるその視線に、なんか恥ずかしくなってくる。
「どうなんだ」
空蒼がなかなか答えないのに痺れを切らしたのか、もう一度聞いてくる土方さん。
答えたいのは山々だが、なんて答えればいいのか全然分からない。なんて答えれば納得してくれるのだろう。
「……最近の江戸ではそう言う服装が流行っているのかな?」
(えっ…)
その声の主、近藤さんの方を向く。
「俺達がここに来たのももう半年前だし、そう言う服装が流行っているのかもしれないね」
ニカッと微笑みながら、近藤さんは土方さんの方を向いた。
空蒼に確認していると言うより、むしろ土方さんに納得してほしくて言っているように聞こえる。
「だろう?」
「えっ…」
土方さんの方を向いたかと思うと、空蒼に視線を移してそう聞いてきた。
(……。)
どうして近藤さんは空蒼を庇うような発言をしたのか。どうして新選組側の立場の局長が空蒼を助けるのか。
そう疑問に思いながらも、その助け舟は正直有難い。どんな言葉を返せばいいか悩んでいたので、とりあえず近藤さんのその言葉に乗っかる事にした。
「…はい、仰る通りです」
近藤さんの思惑は知らないが、助けてくれるその気持ちに答えたい。
「トシ、そういう事らしい」
空蒼が同意した事に安堵したのか、柔らかい表情をした近藤さんが、土方さんにそう言った。
空蒼は土方さんを見る。
「お、おい近藤さん!何こいつを庇ってんだよ」
その光景が気に入らないのか、土方さんは声を荒げる。