あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした






丘の上から見下ろしていた街に近付くにつれて、頭の中に思い浮かんでいるある言葉が信憑性を帯びてくる。


(…やっぱり、電柱もなければ道も舗装されていない…それにあたしの様な格好をしている人なんて一人も…)

着物を着たすれ違う人達にじろじろ見られながらも、足を前に進める。

雨が降った日にはきっとこの道も水がたまり、歩きにくいんだろうなと考える。
無駄に広々としたこの道幅は車が二台はすれ違える程の広もあった。

(…現実離れしすぎでしょ)

きょろきょろ見渡すも右も左も平屋の家ばかり。
茶屋があったり、骨董店があったり、時代劇にでも迷い込んだかのようなその光景に、空蒼は驚きを隠せない。

「……。」

表情を一つも変えずに歩き続ける空蒼だが、これでも驚いている方ではある。
ただ昔に色々とあってから自分は表情を表に出さなくなっただけで。

(…なんか、こんなにもじろじろ見られるからとても居心地が悪い…)

ここは本当に現代の日本なのか?と思う程、現実離れをしている。

(誰か…教えてくれ…)


「きゃゃゃゃゃあああああ!!!」
「っ……!!?」

すると、前方の方から女性の叫び声が聞こえてきた。

両目とも2.0ある空蒼の目に飛び込んできたのは、前方の茶屋らしきお店の前に人だかりができているのが目に入った。

(…なんだ?何かの撮影か?)

でもそしたらスタッフやら何やら通行人の案内をする人が一人や二人居てもおかしくないと思うのだが。

それにもし何かの時代劇とかの撮影なら、カメラマンや音声、監督などが居てもいいはず。
それなのに辺りを見渡してみてもそれらしき人は見当たらない。

(…面倒くさいのに巻き込まれるのは嫌だけど……好奇心には勝てない…)

空蒼は好奇心に負け、その人集りの出来ているお店に向かった。




ものの三十秒程で着いたはいいが、近くに行くと結構な程の人数がお店の前に群がっていた。

(…よく見えないな)

人が沢山いるので野次馬の頭は沢山見えるのだが、中心の現場がよく見えない。
ぴょんぴょんと跳ねてみても同じだったみたいだ。

「俺らに歯向かうのか!?」
「お、お客さん…どうかお静まり下さい…!!」

シンと静まり返るこの場に二人の話し声が聞こえてきた。

(なんだ?色恋沙汰とかか?)

そんな事を思いながら、やっぱり気にはなるので"青色のオーラ"を纏っている隣の人に聞いてみる事にした。

「あの…すみません、これはどう言った状況で?」
「え?」

声を掛けられたことにびっくりしたのか、空蒼を見てとても怪しんでいた。

それもそのはず、この場に不釣り合いな格好をしているだけではなく、フードまで被っているので、怪しまれても仕方がない。
だがここは現代の日本のはず。どうして怪しまれなきゃならないんだろうか。
チラッとフードを少し上にあげて、その人を見つめる。

江戸時代とかでよく見る普通の街の人…黒色の髪に頭の上で髷を結っているのか、髪の束が乗っている。
ただ、空蒼の知るお侍とかがしている髪型ではなく、頭上は剃っていない状態で髷を結っている。

「え…と、なんか…お侍さんがお金を…」

空蒼の視線に気付いたのか途切れ途切れになりながらも答えてくれた。

「お金?」

怪しみながらも答えてくれた男性はぺこっと頭を下げて居なくなってしまった。

「…?」

自分からしたら情報が得られたはいいが、何故お辞儀されたんだろうか。
逆なら分かるのだけど。

(…でも久しぶりに青色のオーラなんて見たな…)

今までの中でそんな人数えるくらいしかいなかったのだけど。

「言ってる事が分からねぇのか!?さっさと金をよこせと言っている!!」

空蒼はその声の方に視線を向ける。

(金を寄越せ?お侍が?)

お侍は貴人なに仕える従者の事。
そんな様な人がこんな騒ぎを起こすはずがない。
ましてやお金を脅して奪い取る様な真似、侍がこんな堂々と真昼間からするのもどうにもおかしい。
という事は偽物と捉える方が自然だろう。
こんなに堂々としているのを見ると、まるで見て下さいと言っているようなものだ。

何か意図がありそうだ。














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