あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
(…。)
分からなくはない。
自分の味方の存在が、怪しいヤツを庇っているんだ。これは誰だって声を荒げたくはなる。
でも空蒼にはそんな事どうでもいい。使えるやつは使う、それだけだ。
(あたしを庇ってくれるのなら、あたしはそれに縋り付くしかない。この時代に自分の味方なんて居ないのだから…)
「そうですよう近藤先生!こんなやつ庇う価値もありません!」
総司に至っては、立ち上がり空蒼を指差してそう言ってきた。
イケメンな顔が台無しだなぁと心の中で思いながら、そんな総司の言葉を気にしないようにする。明日にはここから出ていくのだから、気にしていても意味が無い。
「こらこら総司、少し落ち着きなさい」
「これが落ち着いていられますか!?近藤先生はどっちの味方なんですか!もう知りません!」
そう言い放った総司は、襖に手をかけた瞬間
――スパァァァン
「総司!」
そのまま勢いよく襖を開け、近藤さんの呼び止めにも耳を貸さず、縁側をドタドタと走って行ってしまった。
(……総司のさっきの表情……悲しそうだった…)
空蒼は俯いた。
どうしてこんなに胸が痛いんだろう。今さっき使えるやつは使うと思ったばかりなのに。
総司のあの表情を思い浮かべると、その思いが揺らぎそうになる。
「…ったく総司のやつ、近藤さんに声を荒げやがって」
目の前から、はぁとため息をするのが聞こえる。
「いやいいんだトシ、俺が悪いんだ」
近藤さんを見ると、とても複雑な表情をしていた。
こうなるのを予想してなかったのか、それともそれを覚悟の上で空蒼を庇ったのか、分からないけれど、その表情を見るとこちらが悪いのかもしれないとさえ思えてくる。
(…いや、実際にあたしが悪いんだ。あたしが近藤さんに気を使わせたから…こんな事に…)
新選組を困らせるつもりなんてなかったのに、どうしてこうも上手くいかないんだろう。
(ここでもあたしはやっぱり要らない人なんだな…)
分かっていたはずなのに、そう自覚すればするほど今すぐここから消えていなくなりたい。そう思わずにはいられないくらいの、重たい空気がこの部屋を満たしている。
「…いや、近藤さんは悪くねぇ」
そう言いながら空蒼を睨んでくる土方さん。
なんかもう、冷めた視線がひしひしと突き刺さってくるので、見なくても空蒼の事を睨んでいるのが分かる。
(…そうですね、全てあたしが悪いですね)
空蒼は無意識にフードの端をギュッと握り締めていた。