あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




「……はぁ…総司もいなくなったし、他の奴らも揃ってねぇし…悪いが山南さん、こいつを物置にでも閉じ込めておいてくれねぇか?」

(っ…は?)

土方さんのその言葉に顔を上げた。

「え…物置かい?」

戸惑いながらもそう聞き返す山南さん。目が泳いでいる事から、悩んでいるみたいだ。

「あぁ、とりあえず幹部が揃って話をしないと、こいつの処分が決まらねぇからな。それまで大人しく物置にでも入れておけばいい」
「…だが……」

歯切れの悪い山南さんは、きっとそんな事なんてしたくないんだろう。でも土方さんの言う事だから強く言えないんだ。

山南さんはチラッと近藤さんを見た。
もしかしたら土方さんの中では、空蒼が物置に行く事は決定事項で、それを汲み取った山南さんは近藤さんに助けを求めているのかもしれない。

空蒼も近藤さんをチラッと見る。
複雑な表情に変わりはないが、多分土方さんの言ったことに同意するしかないだろう。

(…これ以上は新選組の面子が潰れかねないし、局長の立場もある。物置に行く事は確定かぁ…)

「…すまない山南先生、トシの言うとりにしてくれないだろうか」
「っ……分かりました」

言いにくそうにそう言った近藤さんに、目を見開いた山南先生は、何かを言いたそうにしていたけど何も言わなかった。

すると山南さんは、その場を立ち上がった。
その様子を無言で見つめていたら目が合った。

「……付いてきて下さい」
「……。」

悲しそうな顔で空蒼にそう言ってきた山南さんは、襖の方に向かう。

この重い雰囲気の中で、拒否する事はきっと誰にもできないと思う。
空蒼は山南さんの言葉に従うように、畳に手を付いてその場を立つ。
その様子を、二つの視線が突き刺さるが気にしてはいられない。物置になんて行きたくないけど、この雰囲気から逃れられるのなら致し方ない。

空蒼から見て左側、土方さんから見て右を空蒼は通り過ぎようとする。

(…あ)

このまま通り過ぎたかったけど、思い残す事が一つだけあったので、土方さんの横で足を止めた。

空蒼は立ったまま、土方さんの方を向く。
腕を組んで前を見据えている雰囲気に躊躇いながらも口を開く。

「…あの、一つだけいいですか?」
「……何だ」

冷めた低い声。
その声に狼狽えそうになるのを必死に堪えて、思っている事を口にする。

「…飯は……」

土方さんに聞こえるか聞こえないかの大きさで、ぽつりと呟いた。
色々とあったから今まで忘れていたが、そもそも空蒼がここに来た一つの理由に、飯を食うという理由があった。
ここに来てから、固形物はおろか水ですら何も口にしていない。物置に言ってもいいからせめて食べ物は約束通り食べさせてほしい。

「……。」

空蒼の問に対して、無言の土方さん。






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