あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
(…ん?どうしたんだろう…)
なんか変な事でも言っただろうか。
「…あの……」
「…早く行け」
「…え?」
こちらを見ずにそう言う土方さん。
空蒼は土方さんを見下ろしながら、訳が分からずその場に立ちすくむ。
「…早く行けってのが聞こえないのか?」
――ビクッ
そう言ってこちらを見てきた土方さんの表情に身体がビクついた。眉間にシワを寄せて、睨むその姿は般若にすら見える。
「……。」
その姿に何も言えない空蒼は、目線を下に向ける。
(…あたし、そんなに嫌われる様なことした?)
どうしてこんなに怒っているのか全然分からない。そして、それを分かりもしない自分にも腹が立つ。
「…お前、もしかして本気で飯が貰えるとでも思ってたのか?」
「っ…」
その言葉に視線を土方さんに戻す。
「馬鹿か?そんなのお前を連れてくる為の方便に決まってんだろ。勘違いすんな、俺らにとってお前は怪しい奴に変わりはないんだ、そんな奴に食わせる飯なんてない」
「……。」
冷めた口調で吐き出したその言葉に、空蒼の身体は硬直する。
(…違う。こんなのあたしの知ってる新選組じゃない。こんな…こんな土方歳三なんて知らない…)
涙が出そうになるのを必死に堪えながら、拳をギュッと握り締める。
(目の前の人物は本当にあの土方歳三なの?あたしの知っている土方歳三は……本当は……)
目の前に座って空蒼を見ている土方さんは、空蒼の知っている土方歳三とはかけ離れたものだった。
空蒼の知っている土方歳三は、厳しい中にも温かみのある人物だった。
(…いや違う。あたしは土方歳三の何を知っている?)
あくまでそれは、新選組の漫画やアニメ、ドラマを見てきた人の感想に過ぎない。
ここは漫画の中でもアニメの中でもドラマの中でもない、現実だ。この目の前にいる土方歳三こそが、本物の土方歳三なんだ。
空蒼の知る土方歳三はあくまで空想の人物像であり、本当の土方歳三は誰にも分からない、知らない。
そして今、空蒼はその本当の土方歳三にこんな突き放された言葉を投げ掛けられた。
(…これが、現実なんだ。新選組の…本当の姿。泣く子も黙る、鬼の副長…)
何を期待していたんだろう。
これが現実。これが普通の反応なんだ。
(それを鵜吞みにして付いてきたのはあたしだ…)
「…話は以上だ、山南さん連れて行ってくれ」
「……行きますよ」
空蒼はぎゅっと唇をかみながら、土方さんから視線を逸らした。
(泣いちゃダメ…泣いちゃいけない。)
もうすぐそばまで込み上げてくる涙を必死に堪えながら、山南さんの後ろをついて行った。