あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…どうかしましたか?」
驚いた表情をしている空蒼を見て、山南さんが聞いてくる。
「あ、いえ……」
何事も無かったかのように、空蒼は物置小屋の奥に足を進める。
(…ってきりあたし、土方さんより山南さんの方が上だと思ってたのに…)
山南さんより土方さんの方が”濃い”とは考えもしなかったのか、空蒼ははて?と考えながらピタッと歩くのをやめた。
空蒼の目の前には、身体を横にしても十分な程の大きさの木の板が立てかけられてあった。
これで寝るのには困らないだろう。身体は痛くなりそうだけど。
「……それでは、えっと…私はこれで…」
空蒼が木の板に夢中になっていると、後ろからそんな声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、困り顔の山南さんに口を開いた。
「案内して頂きありがとうございました」
ぺこりと頭を軽く下げる。
これから山南さんには色々な試練が待ち構えているだろう。山南さんには悔いのない人生を歩んでもらいたい、と心の底から思ってしまう。顔を上げると、呆けている山南さんがいた。
優しそうな目に下がった眉毛。
土方さんの事は嫌いになれても、山南さんの事はきっと嫌いにはなれないんだろうなと、そんな複雑そうな顔を見て思った。
「…自分は大丈夫なので、その手に持っている鍵で扉閉めて下さい。早くしないと、厄介な人が来てしまいますから」
そう言ってニコリと微笑む空蒼。
そんな空蒼の表情を見て、目を見開く山南さん。
(…ん?あれ…?なんで驚いた顔なんかしてるんだろう…)
自分が微笑んだ事すら気付かない空蒼は、はて?と首を傾げる。
「あっ…すみません…では閉めます」
「ありがとうございます」
――ガラガラガラッガチャ
最後の最後まで山南さんは困った顔をしていた。
少しでも気持ちが軽くなるといいのだが。山南さんにはこれ以上迷惑はかけられないから。
(…それにしても)
空蒼は物置小屋の中を改めて見渡してみる。
格子が付いた小さい窓は一つだけあるが、扉を締め切ると薄暗い。
空蒼は立て掛けてあった木の板の方に向かい、それを壁に沿って地べたに横にする。
ギシッと小さい音を立てながら、壁を背もたれ代わりにしてそれに腰を下ろした。
「ふぅ…」
体育座りをして、膝の上に腕を組み顔を埋める。
目を閉じ、さっきあった出来事を思い返した。
目を開けると知らない時代に居て、茶屋の女性を助けたと思ったら総司と土方さんに出会った。
そして飯と寝床を確保する為に二人について行ったら、総司が怒って、土方さんには何故か凄い敵視されてて、気付いたら物置小屋に監禁。
(…監禁であってるよね?これ…)
まさかこんな扱いをされるとは思ってなかった。
怪しまれるのは当たり前だけど、せめて誰かと同じ部屋とかでも良かったのではないだろうか。
それにご飯も貰えなかったので、何かもうよく分からない。
「はぁ…飯減ってんだろ行くぞって言われたら、そりゃ食べさせてもらえるんだって思うじゃん…」
だから付いてきたのに、それ以前の問題とかもう何しに来たのやら。
(…あたしは何処に言っても厄介者みたいだし、これからどうしよう…)
どうやってここで生きていけばいいのだろう。