あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
――ギシッギシッギシッ
二人の足音が遠ざかっていく。
土方さんは開けられたままの襖を閉めてから、二人しかいない部屋の中で、お互い向かい合わせになり座り直した。
「…トシ、あれは言い過ぎなんじゃないか?」
目の前にいる近藤さんにそう注意をされる。
「……まだあいつが間者とも分からねぇのに、優しくしていられるか」
考えている事と真逆の言葉が口からすらすら出てくる。
いつからかこんな性格になったのか本人もよく分からない。気付いたら”鬼の副長”と呼ばれるようになっていた。
彼も決して好き好んで鬼の副長を演じている訳ではなく、人それぞれ秘密があるように彼にもいろいろとあるようだ。
「だが、飯をあげる約束をしてたんじゃないのか?」
「……。」
困った顔でそう言ってくる近藤さんを見ていると、自分の気持ちが揺るぎそうになる。
確かに、あいつが腹の虫を鳴らした時、そんな様な事を言った気がするが、たかが飯が食えるという理由だけで付いてくる奴がいるとは誰が思う。どんだけ馬鹿なんだそいつは。
「トシ、約束した事は守らないとダメだろう」
「べ、別に約束なんてっ…」
「でもそう受け取れるような事を言ったんだろう?それなら約束したも同然だ」
「ちっ……」
こう言われるといつも何も言えなくなる。
それを分かっててきっと近藤さんは言ってくるんだろう。
「それにトシ、物置小屋はいくらなんでも可哀想だろう?誰かと同じ部屋でも良かったんじゃないか?」
近藤さんは俺の目を見つめたままそう言ってきた。
「…だから、まだ間者とも分からねぇ奴をそうやすやすと野放しにできるか」
「そんな事もう思ってないくせに、何をそんなに怒っているんだ?」
「っ……」
その言葉に眉毛がピクリと動いた。
いつもそうだ。
どんなに俺が誤魔化そうとしても、近藤さんにだけはいつも見破られる。
俺はふいっとそっぽを向いた。
気に入らない、どうしていつも見破られるんだ。見破られたくないと思えば思うほど、近藤さんはなんて事ない感じで核心を突いてくる。
「…近藤さんなんて嫌いだ」
いつもいつも俺の思っていることを当てやがって。
そんなに分かりやすいのかよ俺は。
「あははは!俺は好きだぞトシ」
「っ……そういう所だよ近藤さん…」
これだから近藤さんには適わねぇんだ。
はぁと小さくため息を付く。