あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…トシ、答えてくれ…どうしてあそこまで冷たく突き放したんだ?」
すると、さっきまでの穏やかな雰囲気は何処へやら、真剣な眼差しで聞いてきた。
「……あいつを見てると、昔の俺を思い出すんだ」
重たい口をゆっくり開いてそう言った。
「…昔?」
俺の言葉に首を傾げる近藤さん。
「…昔、俺が労咳を患っていたのは覚えてるか?」
「っ…ああ、よく覚えている…」
俺の言葉にこくっと頷く近藤さんを視界に入れながら、遠くを見ながら話を続ける。
「…労咳のせいで生きる気力を無くしていた時の俺の目と、あいつの目が似てたんだ」
あいつの目を見た瞬間、あの頃の俺と同じ目をしているとすぐに分かった。
いつまで経っても良くならないその病気に、嫌気がさしていた時のような自分と重ねてしまった。
「目が?」
近藤さんが聞き返す。
「あぁ…まるで今すぐ殺してくれと言っている目だった」
「…トシ、お前もそんな事思ってたのか?」
そこを突っ込まれるとは思わなかった俺は、は?と突拍子もない声が出てしまう。
確かに今の言い方だとそうとられても仕方ない、あの時の近藤さんの顔を思い出してみれば何も言えないのだから。
「いやだって…トシがそんな事思っていたと思うと…」
しゅんとするそんな近藤さんの姿に、自然と笑みがこぼれた。そんな近藤さんを見て、嬉しいと思うのは不謹慎だろうか。
「あのなぁ近藤さん、その時の俺が何を思ってたとしても、今こうして生きてるんだ…それに話がそれすぎだぜ」
近藤さんが心配してくれるのは有難いが、話が一向に進まない。
「あぁ悪い…そうだな、昔の話だよな」
「あぁ…近藤さんに胸ぐらを掴まれて、すごい剣幕で涙と鼻水を垂らしながら、説教じみた事を言われたら目が覚めたさ」
「説教って…俺はあれでも本気で言ったんだぞ」
覚えていないと思っていたのだが、ちゃんと覚えててくれたみたいだ。
「あぁ、分かってるよ…俺は近藤さんに救われたんだ」
もう無理だと思っていた時、勝っちゃんが家に乗り込んで来た事があった。
労咳だと分かってから、いつも入り浸っていた試衛館に行かなくなり、近藤さんにすらその事を言わずずっと寝込んでいた俺の所に彼が何を勘づいて来たのかは知らないが、あの時は普通に驚いたのを覚えている。
『トシ!お前はこんなつまらない所で死ぬ人間なのか!?何も成し遂げないまま、こんな中途半端で死ぬのか!?』
『おいトシ!俺と一緒に生きると言え!』
俺はそんな近藤さんに救われて、生きる気力を取り戻したんだ。だから今の俺が居る。
「…だがトシ、その話と俺が聞いた質問…話が全然読めないんだが?」
俺の目を見つめながら聞いてくる。
「…俺は、近藤さんみたいに上手く言葉には出来ないし、立場上他の目も沢山ある……なら、他の奴らが何も言えないくらい、逆に可哀想と思えるくらい、俺があいつに冷たく当たれば一人や二人、あいつにとっての生きる意味が見つかるんじゃねぇかと思っただけだ……」
最後は消え入りそうな声になりながらも、何とか言葉にして伝える事が出来た。
だが、今思うと胸糞悪い言い訳にしか聞こえない。
同じ目に見えて、生きる意味が見つかればいいなんて、そんなの自己満足じゃねぇか。