あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…つまりトシは、自分は嫌われてでもいいから、誰かがあの子の助けになってくれたらいい…そんな風に思っているのか?」
「っ…なっ、別にそこまでは言ってねぇよ…」
近藤さんはいつも俺の言葉を正当化しすぎだ。
ただ俺は、そんなあいつが見ていられなかっただけ。同じ目をしていたからそれ以外に理由はない。
「いや、言ってるさ…トシが鞭なら俺らは飴だな」
「…もうどうとでも言ってくれ」
「…トシがそんな冷たくしたら、嫌でも他の隊士は優しくするだろうなぁ?」
「……。」
ニヤニヤしながら見てくる近藤さん。
何が言いたいんだよ。
「それから…そんなに自分を悪にしなくてもいいんじゃないか?いつもトシが嫌われ役をしているじゃないか…」
眉毛が下がり、悲しそうな目でそう言ってくる。
「……近藤さんの隣に居るためには、俺は悪にでも嫌われ役でも何にだってなってやるさ…近藤さんの隣は俺にしかなれねぇよ」
「トシ……」
俺は隣に近藤さんが居るから、悪にでも嫌われ役にでもなれるんだ。むしろ、近藤さんの隣はこんな人じゃなきゃ務まらねぇ。俺はこれくらいがちょうどいいんだ。
「そうか…なら早く物置小屋からあの子を出してあげないとな」
「……は?なんでそうなるんだ?」
飴と鞭なのは何も言わないが、それとこれとは話が別だ。
どうしてそんな話になる?
「お?だってそうだろう?先程からトシの話を聞いていると、あの子を隊に入れるのは決定事項みたいだし、だったら早く、飴を用意しないといけないじゃないか」
「っ……」
ニヤニヤしながらそう言ってくる近藤さんは、とても面白がっているに違いない。
図星の俺を見て遊んでいるな。こういうところは近藤さんだろうが気に気に食わねぇ。
「はぁ…本当にそういうところだよ近藤さん」
深いため息を付きながら、ニヤニヤしている近藤さんにそう言う。
「だから俺は好きだぞ」
「……。」
本当に近藤さんには適わないから何も言えない。だが俺は少しの抵抗を見せるため、近藤さんを睨み付けた。
これくらいなら俺にだって出来る。
「あははは!そう睨むなって……そう言えば…一つ気になったんだが、山南先生をあの子の付き添いにしたのは飴を使うためかい?」
「……。」
俺はそんな近藤さんの質問に無言で返す。
山南さんは俺と違って優しさの塊だ。いや、優しすぎるくらいだ。優しくて博識で俺には無いものを持ってる。
「…トシは不器用だな」
「勝手に言ってろ」
どんな風に解釈しようが近藤さんの勝手だ。
それに否定も肯定もしない。それが土方歳三という人間だからだ。
新選組と言うなを冠された以上、生ぬるい考え方は捨てたんだ。
近藤さん"達"が、飴でいてくれるなら、俺は安心して鞭になれる。安心して鬼になれる。
だから俺は新選組"鬼の副長"でちょうどいいんだよ。誰になんと言われようと俺はこれから先もこのままだ。