あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




「…どうして聞かなかったのかって?」
「……。」

また心を読まれた気がする。


行灯に目をやると中の光がゆらゆらと揺れている。
風が出てきたのか、時折ガタガタと小屋のあちこちが鳴っていた。
そんな光景を視界に入れながら話に耳を傾ける。

「どうして聞かなかったのか…それはトシが言わなかったからだ」
「……え?」

(どういう事?)

空蒼は近藤さんに視線を移す。
こっちを見ていたのか、バチッと目が合った気がした。
ゆらゆらと揺れる灯りのせいで近藤さんの表情がよく見えない。

「確かに気になってはいたが…理由を知っているかの様な発言をしたトシが何も言わないのなら、俺も何も言わないし、聞かない…ただそれだけだよ」
「……。」

真剣な目で話す近藤さんを空蒼は見つめる。
どうしてそこまで人間を信じられるんだろう。人間はすぐに裏切るのに。

「…それに、他の人の口から聞くより、本人の口から聞いた方が確実だろう?噂ほど怖いものはないからね…壬生浪士組時代でも人から人に移る噂に苦労したものだよ」

はは…と力なく笑う近藤さん。

(…優しすぎるよ)

近藤さんの言葉はとてもまっすぐで嘘は付けない気がした。空蒼は覚悟を決めて前を向いて口を開いた。

「…自分の目はオッドアイと言って、左右で目の色が違うんです。他の人は黒なのに自分だけ色が違くて……それのせいで最近まで散々酷い事を言われてきました」

ゆっくりと噛まないように丁寧に言葉を並べる。

「…だから自分は…この目が嫌いなんです。皆と違うこの目が…この目で生まれてきた自分が…大嫌いです」

最後の方は涙を堪えようとして声が震えてしまった。
何かが奥から込み上げてくる。それを必死に押さえ込んで、気持ちを落ち着かせようとする。

(…大丈夫、大丈夫…落ち着け…泣くなあたし、ここで泣いちゃダメだ…)

胸の前に手をついて目を閉じ、ふぅ…と息をつく。

(…大丈夫、あたしは一人でもやっていける…大丈夫)

「…だ、大丈夫かい?」

様子がおかしい空蒼を見て近藤さんは、心配そうな声で聞いてきた。

「……大丈夫です…長話しすぎましたね。そろそろお帰り下さい…風を引いてしまいますよ」

そう言った後、近藤さんの方を向き精一杯の笑顔を作って見せた。

「っ……」

そんな空蒼の表情を見て顔をしかめる近藤さん。
だが空蒼はそんなのお構い無しに言葉を続ける。

「…他の皆さんも心配していると思いますし……何より、あの方の元には行かれましたか?」
「……?あの方?」

空蒼の言葉に眉毛を細める。

「貴方の事、凄く好きみたいですね彼」
「…ん?もしかして総司のことかい?」

腕を組み、眉間に皺を寄せながら考えていた。
その光景に口元が緩む空蒼。



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