あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「そうですね……さぁ早く行ってください」
そう言って壁から身体を離し、近藤さんと向かい合わせになった瞬間
――ビュュュウウウウウウ
強い風が小屋目掛けて吹いてきた。
(っ……か、風!?)
「うおっ!?」
その強い風に近藤さんのびっくりする声が聞こえる。
小屋の扉が開いている事もあり、小屋の中を強い風が暴れていた。その強い風に目も開けられず、腕で顔を隠しながら、風が止むまでじっとする。
(……。)
近藤さんも大人しくじっとしているのか風の吹く音しか聞こえない。
――ビュュウウウウ
段々と小さくなる風の音。
――ビュュウウ
感覚的に約一分
やっと強い風がおさまったようだ。風の音がしなくなった。
「…空蒼くん?大丈夫だったか?」
その声に顔を上げた。
「おっ…?これは……」
「……え?」
顔を上げたら、近藤さんがあたしを見てそう声を上げた。
どうして近藤さんが空蒼を見てそんな驚いた顔をしているのか全然分からない。
空蒼がぼーと近藤さんを見つめていると、急にニカッと微笑んだ。
(…え?)
「…凄い嫌っていたから気になってはいたのだが……これは驚いた…綺麗な目だ」
「っ…!?」
その言葉を聞いた瞬間、バッ!と頭に手をやると、フードが頭から落ちていた。どうやら先程の強風でフードが肩に落ちたようだった。こんな様な事、前にもあった気がするなと思いながら、空蒼は肩に落ちたフードを被り直す。
「…空蒼くん」
「出てって下さい」
「……。」
「…もう遅いので出てって下さい」
空蒼は近藤さんに背を向けたままそう投げかける。
「…分かった、おやすみ」
「……。」
そう言った近藤さんは、もうそれ以上何も言わず扉を閉めていなくなった。
(……。)
先程の強風で行灯の灯りも消え、近藤さんが来る前の暗闇に戻された。
空蒼の視界にほんの薄っすら竹筒が見えるのが分かる。笹の葉に包まれたおにぎりと竹筒を手に持ち、灯りの消えた行灯の隣にそれを置く。そして空蒼はまた硬い木の板の上に腰を下ろした。
「はぁ……」
壁に背中をつけ、足を伸ばす。
近藤さんの、あの顔が忘れられない。
そして目を見て言い放ったあの言葉。
"綺麗な目だ"
「っ…」
なんで、土方さんも近藤さんも総司もそんな事を言うんだろうか。この目を見てどうして綺麗だなんて言えるんだろう。
(でも…そう思うのに……言われて嫌な気分はしなかった…)
どうして綺麗と言うのかは分からないけれど、この目を綺麗だとは思わない。
この目のせいで散々嫌な目にあってきたのに、それを綺麗だなんて思えるわけがない。
(…あたしは…他の人とは違う……そう、あたしは未来の人だから…考え方が違うんだ…)
空蒼はそう思いながら、木の板で横になって目を瞑った。