あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした

第五話






太陽の明かりが差し込む畳の匂いが残る部屋に、心地よい風が縁側をすり抜け、部屋の中の空気を入れ替えてくれている。

そんな部屋の中に、二人の人物が向かい合わせになってお膳を前にして座っていた。目の前にはお味噌汁やお漬物、焼き魚などがお膳の上に置いてある。

彼ら以外のお膳もそのまわりに置いてあるが、二人以外の人影は見当たらない。
それもそのはず、一人は寝坊、一人は厠、二人は見回り、一人は"ある人"を呼びに行っているからだ。
なので今この部屋には、土方歳三と沖田総司だけが席に着いていた。
お互い無言のまま、皆の来るのを待っている。

目の前の男、沖田総司は不貞腐れているのか、拗ねているのか唇が少しとがっていた。

それを見て、はぁとため息を付きながら俺は口を開いた。

「…おい総司、いつまで拗ねてんだ」

沈黙を破るように、俺の声が部屋に響いた。

「なっ…俺は別に拗ねてなんていません!」

俺の言い方がいけなかったのか、そう声を荒げた後、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

昨日、朔雷空蒼と名乗る人物を含めて話をしてた時、急に怒って出て行ってしまった総司は、あの後からずっと不機嫌だ。

そして今もこの様子からすると、その機嫌は直っていないらしい。

「…あのなぁ、近藤さんはああ言う雰囲気は嫌いなんだ。だからあいつを庇った。ただそれだけだ」

そっぽを向く総司に呆れながらそう言う。

近藤さんは人が良すぎる。だからあの時も困っていたあいつを庇っただけだ。それ以外に何がある。

「…そ、それは…分かっています…」

途切れながらもそう呟く総司は、分かっていると言っておきながらも複雑な表情を浮かべている。

「…分かっているならなんで納得いってない顔してんだよ」

俺の言葉に総司は下を向く。
俯いた総司を見ていると、試衛館時代を思い出す。

あの頃は、俺に散々打ちのめされてこんな風に不貞腐れていた。俺がちょっかいを出せば頬を膨らませて追いかけてきて、それを俺は年上にも関わらず本気で打ちのめしていたんだ。そしてその度に近藤さんに泣きついていた。

そんな懐かしい記憶が頭の中に蘇る。

「……どうして…どうして自分を素人のように言う奴が、近藤先生に褒められるんですか?しかも独学って…どうして努力を知らなそうな奴が、近藤先生に天才って言われてるんですか?少ししか剣道をやってないって言っておきながら…どうしてあんな奴は…あんなに慣れている感じで刀を構えてたんですか?そんな奴のその行動も言動も謙虚さも全て、気に入らないんです…」

「……。」

そう言いきった総司は手に力を入れていた。
泣かないのを我慢しているんだろうか、歯を食いしばっているように見える。

総司がこんなに自分をさらけ出すなんていつぶりだろうか。





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