あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




左之助の後に続いて急いで物置小屋を目指す。

「…あ?」

物置小屋が視界に入って見えてきたと思ったら、騒ぎを聞き付けた何人かの隊士が物置小屋の出入口付近に立って中を覗いていた。

「ったく……おい!お前らは仕事に戻れ!」

そう怒鳴ると俺の声が聞こえたのか、こちらを見た瞬間その場を急いで離れていった。

「ったく…」
「着いた!」

左之助の言葉を聞きながら、小屋の中に入る。

「っ……」

ピタッと動きを止める。

「…土方くん?」
「山南さん…」

目の前には、厠に行っていたはずの山南さんと、木の板の上で息を荒くしたあいつが横たわっていた。

「山南さん!先にいたんだな!」

俺の横にいる左之助が元気な声で山南さんにそう言った。

「えぇ…小屋の方が騒がしくて来てみたんだ…そしたら…」

そう言いながら、山南さんはあいつに視線を移す。
俺もそれに習ってそいつに目を向ける。
顔が火照っており、上下に激しく揺れる肩。寒いのか、自分の身体を抱き締めて小刻みに震えていた。

「…気が利きませんでした…もう冬になると言うのに、布団の一つや二つ用意しておけばよかった…」

そう言う山南さんはとても複雑な顔をしていた。

いや、違う。
山南さんは悪くない。
俺が悪いんだ…あんたがそんな顔をする必要なんてない。そう思うのに言葉には出せない。
それに、昼間はまだ暖かいものの、朝晩は流石に冷えるこの季節に、物置小屋に入れたのが間違いだった。
いや、たとえ間違いでは無いにしろ、何かしら用意するべきだったのかもしれない。

「…トシ!」
「っ……」

そんな事を思っていたら、後ろから近藤さんの声が聞こえてきた。
振り返ると、寝坊した近藤さんとその後ろに総司がいた。

「…総司、お前…」

総司はバツが悪そうな表情で口を開いた。

「…土方さんが部屋を出て行ったあと、近藤先生が来て…事情を説明したら私も行くって言うので…」

しどろもどろになりながらそう説明する。

「…そうか」

近藤さんが行くって言うならついて行くしかしねぇよな。

「トシ…空蒼くんが倒れたって…」

悲しそうな顔をした近藤さんが俺にそう言ってくる。
いつあいつを名前呼びにしたのか知らないが、今は構っている暇は無い。
俺はそんな二人から視線を逸らし山南さんに近付いた。

「山南さん…どいてくれ」
「……。」

山南さんは俺をじっと見たあと何も言わずに、そこを空けてくれた。

「……。」

目の前には苦しそうな朔雷空蒼が横たわっている。
俺は、そいつの脇の下と膝の下に手を回し、ゆっくりとそいつを持ち上げた。

「はぁ…はぁ…」

持ち上げた事によって自然と距離が近くなる。それによって息が荒いのが嫌でも分かった。
俺は眉間に皺を寄せ、くるっと後ろを振り返る。

「左之助、お前は先に行って俺の部屋に布団を用意しろ」

有無を言わさない雰囲気で左之助にそう伝える。

「わ、分かった!」

それを聞くと、すぐさまここから居なくなった。

「トシ、空蒼くんは…」

心配した顔でそう聞きながら近付いてくる近藤さん。
すると、俺はふと視界の隅に何かが映っているのに気が付き、そちらに目を向ける。

「……塩むすびと竹筒?」

そこには笹の葉に包まれていると思われる塩むすびと、水の入った竹筒、それに火の消えている行灯が置いてあった。







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