あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした








――ガキンッ!!


「はぁはぁはぁ…」

竹箒で刀を受け止めたので鈍い変な音が聞こえた。
呼吸が荒く、方が上下に激しく動く。

男が刀を振り上げてから受け止めるまで、ものの三秒程。
空蒼は何とかその刀を竹箒で受け止める事に成功していた。

(例え模造刀でも人を殺せるくらいの威力は全然あるのに、どうしてカットが掛からない?これは撮影…だよな?)

「お、お前は誰だ!?邪魔をするな!」

空蒼に受け止められたので、刀を引っ込める男。

(赤い…オーラ……やっぱりこいつは偽物だ…)

空蒼は野次馬を見渡す。
誰も助けるどころか、逃げる人の姿が視界に入ってくる。

「お前…俺らが新選組だと知っていながら邪魔をしたのか!?」

目の前の男は、野次馬達に聞こえるように大きな声でそう怒鳴る。

「……。」

とりあえず、女性を安全な場所に避難させなければ。
空蒼はチラッと後ろにうずくまっている女性に視線を向ける。
酷く身体が震えていて今にも倒れそうな顔色。

「…そこのお嬢さん、今のうちに安全な場所へ」

男に聞こえないように声を潜めて後ろにいる女性に声をかけた。

「……っえ…?」

身体をビクッとビクつかせながらあたしを見てくる。

「早く、ここは何とかするので」
「…はっ……はい…!」

涙目の女性はそそくさと隣のお店に入っていった。

「お、おい!まだ話は終わってねぇ!」

その声に空蒼は男に視線を戻した。
すると、目の前の男は刀を構え直していた。

さっきこの男は俺らと言っていた。
だからあと数人は店の中に居るんだろうなと思いながら、自分も竹箒を構える。

(…?)

竹箒の持ち手をよく見ると、少し切れているのが分かった。

(え…?どうして切れてるんだ?真剣ならまだしも模造刀は、刃の部分は潰れているはずなのに…)

空蒼は男の刀の刃を見つめる。

模造刀は刃が潰れているため斬る事は難しいが、突きなら模造刀だろうと人を傷付ける事は出来る。
なので、突きではないさっきみたいな斬るだけで、この竹箒が切れるだろうか。

(…まさか)

嫌な予感が空蒼の頭の中に思い浮かぶ。

「お前…何者だ?変な格好までして、我ら新選組の敵だな!?」

さっきから怒鳴っている男が新選組だとは到底思えないのに、まだ新選組だと名乗っている。




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