あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




『化け物だ、こっち来るな!』

『こっち見ないで!化け物!』

違う。

あたしは化け物なんかじゃない。

『目が合ったら呪われるんだって』

『えぇ何それ怖すぎ!』

違う。

呪いなんてしらない。

『人間のニセモノめ!』

『悪魔だ!』

違う。

あたしは悪魔でも偽物でもない。

『消えちまえ!』

『お前なんか目障りだ!』

『視界に入るな!』

違う!

あたしはただの…ただの普通の人間なのに!!



――はっ!

「はぁはぁはぁはぁ…」

肩が上下に揺れる。
心臓がバクバクしており、額には汗が出ているのか身体が熱い。

それに嫌な夢でも見ていたのか気分も悪い。頭も痛いし、節々もなんだが痛い気がする。

「……あ、れ?」

すると、周りの違和感に気付いて声を上げた。

空蒼の目に最初に飛び込んできたのは、木の天井。それに少し畳の匂いもする。
身体に掛かっている物を見ると、普通の着物より一回り大きい綿の入った襟袖付きの着物だった。

「……。」

首を動かし、左右をきょろきょろする。
右には襖、左にほ箪笥や棚が置いてあった。
極め付きには、額の上に濡らした手拭いが置かれていた。
まだ濡れているので置いてくれたばかりなのだと思う。

(それにしても…どうして?あたし物置小屋にいたよね?なんで部屋にいるんだ?)

自分の置かれている状況に戸惑ってしまう。
でも、ここはどこなのかと思うと同時に、何故か安心する匂いがする。どこか暖かい落ち着く匂いがこの部屋から匂ってくる。

空蒼は手拭いをどかしてゆっくりと身体を起こした。

「っ……」

起き上がるとさっきよりも頭が痛み出す。
身体もどこかふらふらとおぼつかない上に寒気さえする。
頭を抑えて頭痛の収まるのを待つ。

(…もしかしてだけど、あたし熱があるの?)

自分の体調にいまいち理解が出来ておらず、戸惑う事しか出来ない。

「はぁはぁ…」

やっぱり息も荒いみたい。

空蒼は頭を抑えながら、もう一度部屋の中を見渡してみる。

(……あれ?この部屋…)

――スゥゥゥ…

ビクッ

急に襖の開く音が聞こえたので身体が反応した。

「…起きたのか」

その声に目線を移す。

「……。」

そこには、無表情の土方さんが立っていた。
顔も見たくない空蒼は土方さんから視線を逸らす。

そして無意識に自分の着ているモノに目線がいった。

「っ…え?」

無地の浴衣を着ている。

バッ!と土方さんの方を向く。

「…あ?」
「服は…」

落ち着け自分、落ち着くんだ。空蒼は今、男のフリをしているんだ。ここで騒いだら怪しまれるに決まっている。

ふぅと落ち着きを取り戻した空蒼はもう一度口を開いた。

「…着ていた服はどこですか」

できるだけ怪しまれないように、なんて事ないという演技をしなければ。

「あぁ…お前の服は汚れていたから洗濯に出した」
「っ…」

(洗濯?洗濯だって?何を勝手な事を…まぁ、ヒートテックは着ているからまだいいけど……あれ?)

そこまで考えてやっと置かれている状況に気が付いた。
ばっ!と頭を触る。

(ない…ない!)

空蒼は土方さんから視線を逸らした。

空蒼は今、目を隠すものが何も無い。
今伸びている前髪なんて気休めにしか過ぎず、フードを被っていたのに。

「…お前、そんなに嫌なのか?」

そう問いかけてきた土方さんは、あたしの座っている横に腰を下ろしてきた。

ぎゅっと歯を食いしばる。
下を向き、目を見られないように目をつぶる。

「そんなに綺麗な目をしてるのに…嫌な理由が全然分からない」
「っ……」

その言葉を聞いた瞬間、空蒼は土方さんの胸ぐらを掴んでいた。






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