あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「その前髪さえ切れば完璧なんだけどな〜」
何が完壁なのか分からないが短髪の男は空蒼の前髪を見ながらそう言ってきた。
「…おい左之、自己紹介もしてねぇのに話しかけるなんて失礼だろ?」
「あぁ?なら新八だって自己紹介してないじゃん」
髪の長い男が短髪の男にそう言って突っかかる。
「あ?俺はいいんだよ」
「なんで新八だけいいんだよ!」
わーわーと騒ぐ二人を空蒼はポカーンと見つめる。
(…新八と左之って事は……)
「おいおめぇらいい加減にしろ!少しは静かに出来ねぇのか!」
すると、その光景に痺れを切らしたのか、土方さんが二人に向かって怒鳴ってきた。
眉間に皺を寄せて、貧乏ゆすりをしている。
「「だってこいつが!」」
土方さんに怒られた二人は、お互いを指さして人のせいにする。その様子にため息をついた土方さんは、二人を無視して空蒼に視線を向けてきた。
「おい…もう体調はいいのか?身体がだるいとか、寒気がするとか、頭が痛いとか、もうないか」
真剣な表情でそう言ってくる土方さんを無視することができない。
あの時、散々土方さんに対して失礼なことを言ったのに、何も責めることなく空蒼にとって嬉しいことを言ってくれた土方さんに、申し訳ないと思っている自分がいるからだ。
「はい…もう大丈夫です」
そんな事、絶対口には出さないが。
「そうか」
そう一言言われると、土方さんが急に立ち上がった。
フードが乗っていない頭に違和感を覚えながら、土方さんのその行動を目で追う。
「もう行くのか?」
隣に座っている近藤さんが土方さんにそう聞いた。
「あぁ…やる事があるからな」
そう言いながらチラッと空蒼を見てきた。
「…?」
「……悪かった」
「………?」
そう言うやいなや、素早い動きでこの部屋を去って行った。
(…え?)
理解が出来ないまま、土方さんは居なくなってしまったので、いまいち意味が分からず首を傾げる。
(…何を言いたかったわけ?)
そう思っていると、近藤さんと目が合った。
「あれでもトシは反省してるんだよ」
優しい目で空蒼にそう説明してくれる。
「ははは!土方さん照れてるな!」
「柄にもない事を言ったからな」
短髪と髪長の男も近藤さんに同意していた。
(…反省?あたしに対して謝ってたってこと?)
謝れるような事をされたかな?と思いながら考えていると、結構思い当たる節があるのに気が付いた。