あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
どれに対して謝っているのか分からないけど、あの人なりの謝罪のつもりなのだろうか。
「空蒼くん…俺からも謝罪させてくれ…すまなかった」
そう言うと近藤さんは急に、空蒼に頭を下げてきた。
「え…えっ?ちょっと待って下さい!自分は貴方に謝られるようなことはされていません…さっきの人にはされたけど…」
あも空蒼きっと素直になれない性格なのだろう。はっきりと言わないのもずるい気がする。
だが、こうも謝られっぱなしは普通に落ち着かない。
「そうだぜ近藤さん!土方さんは謝って当然だけど、近藤さんが謝る事は何も無いぜ」
近藤さんを庇う声に視線を向ける。
(短髪に黒髪…さっき左之って言われてたこの人は…)
空蒼がその人をじっと凝視していると、それに気付いたのかこちらを向いてきた。
「おっ、俺の事が気になるのか!?」
「……。」
そんな事誰が言ったんだろう。
ただ、この人が自分の思っている人でいいのかどうか考えていただけなのに、勘違いしないでほしい。
そんな事を言う短髪にあたしは睨みを効かせる。
「俺は新選組十番隊組長原田左之助だ!朔雷空蒼だっけか?よろしくな空蒼」
空蒼が睨んだことに気付いていないのだろうか、そんな事なんてお構いなしに勝手に自己紹介をしてきた。
「おい左之だけ自己紹介すんな!空蒼、俺は二番隊組長の永倉新八だ、分からない事があったらこいつなんかより俺を頼れよ」
長い髪を後ろに結んで、目の細めな永倉さんが、原田さんに喧嘩を売るようにそう言ってきた。
(そうだろうとは思っていたけど…髪の長いのが永倉さんで短髪なのが原田さんか…)
「おい新八!こいつとは何だ、こいつとは!」
「左之はこいつで十分なんだよ」
先ほど、土方さんに怒られたのにまだ懲りていないのか、また言い合いみたいなのをしている二人。
そんな二人を優しい目で見つめる近藤さんは本当に懐が深い人物だと思う。
だが、あと数年で新選組を脱退する二人が、近藤さんと同じ空間に居るっていう事実だけでも新鮮なのに、あの「新撰組顛末記」という新選組を知るうえで必ず読むべきである第一級史料を残してくれた、あの永倉新八が今目の前に居るという事実に目が眩みそうになる。
新選組局長の近藤勇、副長の土方歳三、同じく副長の山南敬助、副長助勤であり一番隊組長の沖田総司、同じく二番隊組長永倉新八、十番隊組長の原田左之助。
これだけでもとても豪華だというのに、まだ会っていない人物がいるとなると、あたしの心臓はいくつあっても足りない気がする。
(本気で目が眩みそう…)