あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「あ、俺そろそろ見回りの時間だわ」
騒いでいた原田さんが急にピタッと動きを止めてそう呟いた。
「あ、俺も…平助と交代しなきゃ」
それに続くように、永倉さんも動きを止めた。
(仲が良いんだか悪いんだか…)
そんな二人を見て、空蒼は苦笑いを浮かべる。
きっと男の友情はこんな感じなんだろうなと思いながらも、羨ましいなとも感じる。
「よし左之!門まで競争だ!」
そう言った瞬間、永倉さんがすごい勢いでこの部屋を出て行こうとする。
「あ、空蒼!今度一緒に手合わせしような!」
そんな言葉を空蒼に残してこの部屋から出て行った。
「おいずるいぞ新八!待ちやがれ!」
出て行った永倉さんにそう叫びながら急いで彼の後を追う原田さん。
「空蒼!また後でな!」
笑顔を空蒼に向けた後、原田さんもこの部屋を出て行った。
「……。」
そしてシンと静まり返る部屋。
この光景を見てそう思わずにはいられないから。
新選組はあたしの理想だ。どんなに言い合いをしても、あんなすぐにいつもの関係に戻れる付き合いはとても羨ましいと心から思う。いつか新選組の人達みたいな仲間に出会いたいと願わずにはいられない。
「騒がしくてすまないね」
静まり返った部屋で、近藤さんの声が聞こえた。
土方さんが去り、永倉さんと原田さんも部屋を去って行った。この部屋に残るのは空蒼と近藤さんだけだ。
「いえ…いつもあんな感じなんですか?」
これは空蒼の好奇心だ、ちょっとくらいなら新選組について知るのは許されるだろうか。
空蒼は近藤さんを見つめる。
「恥ずかしながら…だが私達にとってはこれくらいが丁度いいのかもしれないね」
「…そう…なんですね」
恥ずかしそうに語るその姿に、微笑ましいと思う反面、羨ましいと思う気持ちも込み上げてくる。
それだけ、空蒼にとって新選組は魅力的な存在なのだ。
「それはそうと、腹が減ってはいないか?」
「…腹ですか?……そう、ですね…多分?」
急に言われるものだから、曖昧な返答しか出来ない。
(そう言えば、近藤さんから貰ったおにぎり…食べ損ねたっけ)
あの時は今更貰っても嬉しくないと思って食べなかったのだ。今思えば子供だなと感じる。
「そうだろうと思って持ってきてるんだ」
そう言いながら、空蒼の目の前に見慣れたものが差し出された。
「これは…」
「塩むすびと水だ、この前食べ損ねただろう?まだ温かいから冷めないうちに食べるといいよ」
そう言って、あの時と同じ乾燥した笹の葉に包まれている塩むすびと、水の入っている竹筒を空蒼の手の上に置いてくれた。
近藤さんを見ると温かい笑みを浮かべている。