あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「……ありがとう、ございます」
近藤さんの顔を見ていると、こっちまで温かい感情になる。
わざと食べなかったのに、どうしてここまで優しくしてくれるんだろう。こんな変な奴に。
「それを食べて早く元気になってくれ、五日も目を覚まさないから本当に心配したんだよ」
「…え?五日も……眠っていたんですか?」
近藤さんの言葉に耳を疑う。
「ああ…物置小屋で空蒼くんを発見して、トシが自分の部屋に運んできてから五日間も眠っていたんだ」
「五日間…」
そんなに熱は酷かったのだろうか。
でも空蒼は、その熱が出ている最中に土方さんと会話したのをちゃんと覚えている。
だけど、近藤さんの言い方だと空蒼は一度も覚ましていない事になっている、なら土方さんはその五日間の中で一度目を覚ました事を伝えていない?一体何故…。
(……ん?ちょっと待て…)
先ほどの近藤さんの言葉を思い返していると、無視できない事を言っているのに気が付いた。
空蒼は恐る恐る近藤さんに確認する。
「あの…この部屋に運んできた人物は誰だと言いました?」
聞き間違いだと思いたいあたしに対して、容赦ない言葉を言ってきた。
「ん?ここまで運んできたのは他でもないトシだぞ?」
「……。」
空蒼はその言葉に目を見開いた。
聞き間違いではなかったようだ。空蒼の思いも空しく、一番借りを作りたくない相手に借りを作ってしまったようだ。
いやそもそも、空蒼の目を綺麗だとあの時論破してくれた時点で、もう既に借りを作られているのに変わりはないか。
(それに…見たことのある部屋だと思ったら、一番最初に連れて来られた部屋で、しかも土方さんの部屋だとは誰が想像できるだろう)
空蒼は抱えている塩むすびを見つめる。
そんなあたしを見て近藤さんが口を開いた。
「…空蒼くんからしたらトシは嫌いな人なんだろうけど、先刻言った通りここまで運んできたのもトシだし、五日間付きっきりで空蒼くんの看病をしたのも実はトシなんだ」
「っ……」
その言葉に眉毛がピクリと動いた。
(…土方さんが…あたしを…看病?)
驚きを隠せないまま、空蒼は近藤さんに向き直った。
「そんな…冗談を…」
きっと冗談だ、冗談に決まっている。
(だって何の得がある?あたしの事を看病したって土方さんに何のメリットもない。ましてこんな怪しい奴の事を嫌悪していたくらいだ、そんな人がどうして看病なんかするんだ?ありえない)
そう自分に言い聞かせる。