あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
(…馬鹿、なのかな?)
空蒼はナメクジを見るような目で男を見る。
「なっ、なんだよその目は!俺を馬鹿にしてんのか!?」
フードを被っているお陰で瞳の本当の色は彼には見えていないだろう。フードの影でせいぜい灰色くらいにしか見えないはずだ。
(…この目を見られる訳にはいかないんでね、このまま闘うしかないか)
「おい!黙ってないで何とか言え!」
さっきから喋らない空蒼を見て、凄くイライラしているようだ。
その姿を見た空蒼は呆れた顔をしながらため息を付いた。
(はぁ…)
「……馬鹿」
「…あ?」
「馬鹿?」
空蒼は男に対してからかうような言葉を言い放った。
ただでさえ、イライラしているのにそんな言葉を言ったらどうなるのか空蒼は分かっているのだろうか。
「お前……」
刀を持つ手がぷるぷるしている。
(…じゃあ最後に…)
ニヤっと口角が自然に上がる。
「…ばーか」
空蒼は追い打ちをかけるように、爆弾を落とした。
「こ、の!ガキがァァァ!!」
その瞬間怒りに任せて男は縦ではなく横に刀を振り下ろしてきた。
そう、それはまるで刀の扱い方を知らない素人の様に、ただ闇雲にブンブン振り回すガキのように。
それを見た空蒼は待ってました!と言わんばかりに、身を低くする。
(…これだからこういう奴は扱いやすいんだよね)
空蒼はどうやらこうなるのを見越していたようだった。
しゃがんだ瞬間、空振りとなった男は体制を崩す。それを空蒼は見逃さなかった。
頭上を見上げると今にも倒れそうな男と、その手に持っている刀を目が捉える。
――ガシッ!!
「っ…おまっ…!!」
「……。」
刀を握っている男の手首を掴み、男に向かってニコリと微笑んだと同時に、右手に持っている竹箒の先で男のみぞおちにお見舞いした。
「がはっっっ!!」
ここら一体を下品な声が響き渡る。
ドサッと地面に倒れた男は、当分は目を覚まさないだろう。
「ふぅ…」
持っていた竹箒から手を離し、倒れる寸前に男の刀を取り上げた空蒼は、その刀の刃をじーと見つめる。
「これ…」
しっかりとした刃文に鋭い刃にしか見えないそれは、模造刀には全然見えない。
恐る恐るその刃に少し触れてみる。
「っ…!!」
それの正体に気付いた瞬間、目が見開かれた。