あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…長話をしてしまったな、そろそろお暇するよ」
黙っている空蒼に気を使ったのか、そう言いながら立ち上がった。
その動きを目で追いながら、口を開いた。
「あの…自分はいつここを追い出されるのでしょうか」
確か、ここに来た日に処遇は明日言うと言っていた気がする。
熱が出たせいでそれは延期になったと思うが、体調が戻ればまたそんな話になるはずだ。
「それはトシから聞いてくれ」
「え…?」
そう言うと、近藤さんはこの部屋を出て行ってしまった。
「……。」
(土方さんに聞けと言われても…二人きりで会うのはちょっと…)
土方さんの目の前で泣いてしまった手前、二人きりだとなんだか恥ずかしい。
さっきは他に人がいたから良かったが流石の空蒼にも羞恥心といものは存在する。
――グゥゥゥウウウ
「っ……」
すると突然、そんな音が部屋に響いた。
空蒼は音が鳴ったお腹に手を当てる。
誰も居なくてよかったと思いながら、先ほど近藤さんから貰った塩むすびを食べることにした。
乾燥した笹の葉に縛ってある紐を解いて、中身を確認する
「…おにぎりだ」
現代の様な全て白いお米とまではいかないが、白米と雑穀を混ぜたご飯に塩がつけられた、至ってシンプルなおにぎりだ。握りこぶしくらいのおにぎりが二個と、その隣には沢庵が二枚添えられていた。
「いただきます…」
そう言ってまだほんのり温かいおにぎりを口に運ぶ。
「っ……うまい」
少し米は固いが、塩加減が抜群で食が進む。
それについでに言えば、こちらに来てから水すら口にしていなかったので、空腹が一番の調味料となったようだ。
「ふぅ…お腹いっぱい」
ものの二分足らずでおむすび二個と沢庵を食べ終えてしまった。
最後に乾いた喉を潤す。
「ぷはっ…」
一気飲みをしてしまった。
相当喉が渇いていたのだろう、なんならまだ欲しいくらいだ。
約一週間、何も口にしていなかったので、空腹より水分の方が欲しているらしい。
(ん?でも人間って食べ物は二週間くらい食べなくても大丈夫みたいだけど、水分は四~五日取らなかっただけで死に至るって聞いたことがある様な……まぁもう過ぎたこと事だ、こうやって生きているし大丈夫だよね)
そんな呑気なことを考えていたら何だか眠くなってきた。
空蒼は食べ終わった物を布団の横に置いて、身体を横に倒す。
仰向けに寝転がり、天井を見つめる。
(なんて言われるんだか…)
処遇については土方さんに聞くように言われた。
もしかして土方さんに殺される?いや、元々殺す気ならわざわざ自分から看病なんてしないだろう。
ではどんな処遇なのか。
出て行けと言われたらそれまでだが、もし…もしもここに残れと言われたら、自分はなんて答えるつもりなんだろうか。
新選組の結末を知っているのに、ここに残るという選択をしたらそれは間違いじゃないのだろうか。