あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした



(まぁここは男所帯だけど、男にも羞恥心はあるよね……きっと)

空蒼は最後の望みに賭けてみることにした。
これでも無理なら諦めよう。そう思いながら口を開いた。

「…まさか、男でありながら覗きをしている人がいるとか?」

男と覗きを強調して彼に聞こえるように言い放った。

――ガタガタガタッ

すると、天井から物音が聞こえた。

(やった、引っかかった)

空蒼の言った言葉が効いたのか動揺しているみたいだ。
温順で無口だと言う情報を持っていて良かったと思う、そんな人があんな事を言われて動揺しないわけがない。

(さて…今の物音で相手も気付かれたと思ったはずだ…相手はあたしの事を男だと思っているだろうから、この後はどうやって仕留めようか…)

空蒼は穴が良く見えるように身体を起こした。
そしてとりあえず、物音を聞いてびっくりしたフリをする。

「えっ…やっぱり誰か…覗き見しているのか?」

――シーン

「うわぁ、破廉恥」

――ガタタッ

「はっ、破廉恥って言うな!」

すると、また物音がしたと思ったら、天井裏から声も聞こえてきた。

「あっ…しまった」

後悔している声まで聞こえた。

にやりと口角が上がる空蒼。
どうやらこの勝負、空蒼の勝ちのようだ。

「さぁ、そろそろ下りてきてもいいんじゃないですか」

さっきまで子供のように話していた口調をいつもの自分に戻した。

「……。」

その問いかけに何も答えない彼。
もしかしてこのまま見逃せとでも言うのだろうか。
せっかく賭けに勝ったのにそんな事絶対にさせない。

空蒼ははぁとため息をついてから口を開いた。

「分かった…そのままでいいので聞いて下さい」

彼に会ったらお礼を言いたかったのだ。
ただでさえ、間者と疑われているのに屯所の中を歩き回るわけにもいかず、いつか会えたら言おうと思っていた。
それに彼は諸士調役兼監察、その名前の通り怪しい人、すなわち今のように間者と思しき人を見張る役目がある。それは、今現在新選組隊士として在籍している人も例外ではなく、常に監視の目が入る。
なので、自分の正体がバレないように名前も何個か持っていると聞いたことがあり、彼の存在は一部の人しか知らないとも言われている。そんな彼に、たとえ自分が疑われていなくても、そのような事情から、必ず会えるとは思っていなかった。
だから、今こうして会えたことはとても奇跡に近い。それも相まって今のこの状況を無駄にはしたくはない。

「…一つだけ言いたいことがあります」
「……。」

無言という事は、肯定ととっても良いということだろう。

空蒼の仮説が正しければ彼は……天井を見つめたままあたしは彼に聞いてみた。




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