あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




「貴方は…もしかして自分が熱を出している時…服を替えてくれた人?」

そう。
空蒼が気になっていた事だ。

熱の中目が覚めた時、空蒼は無地の浴衣を着ていて、その事を土方さんに確認したら洗濯に出したとしか言っていなかった。
土方さんが着替えさせてくれたのかなとも思ったが、それなら彼から言ってくるはずだ。そうじゃなかったのはきっと自分じゃなかったから。
では誰が着替えさせてくれたのか。そんな事どうでもいいと思うかもしれないが、女の空蒼からしたらこれはとても大事な事なのだ。もし女だとバレたら色々と大変なので、今からでも誰が着替えさせたのかはっきりさせておきたい。

そして、土方さんではないとなると、考えられる人物はただ一人。
今天井裏に居る、諸士調役兼監察山崎丞だ。この人しか考えられない。

「……。」

無言だ。

これじゃあ女とバレたのかバレてないのかよく分からない。
いや…もしかしたらもう既にバレているのかもしれない。
パーカーの下にヒートテックを着ていたとはいえ、パーカーを脱がされた時点で晒でも巻いていない限り、胸のでっぱりは絶対分かるはず。ましてヒートテックとなると、普通の服より肌に密着するので確実にバレる。

(少しカマをかけてみるか)

「…貴方が着替えさせたのなら、自分の正体に既にお気付きでは?…実は…」
「ちっ違う違う!俺は何も見てない!少しふくよかのあるむっ胸なんてっ…俺は何も見てない!」

少し慌てながら言うその言葉で確信した。
バレている。

「あっ…またやってしまった…」

凄い素直な性格みたいだ、言わなくてもいい事まで話してくれる。

「なぁちょっとさ、少し面貸してくれないか?今凄く腹立たしいんだ」
「えっ…」

いつもと違う空蒼の口調に言葉が漏れてしまったようだ。

(おっといけない、本当の素が出てしまった)

んんっと喉の調子を整えた後、また天井を見つめる。

「すみません、ちょっと口が滑りました…下りてきてくれませんか?」

今度こそいつもの口調に戻った空蒼。
にこっと微笑みながらも、その顔は笑っていない。

(…少しふくよかって…少しって言わなくてもいいんじゃない?そこ、女性は気にするところよ…)

まぁ、悪気があって言ったわけではないと分かってはいるけども。
下に下りてきてほしいので口実を作る。





< 63 / 123 >

この作品をシェア

pagetop