あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「……俺は立場上、簡単に人前には出れない…君が女子だと言うのは秘密にするから…今日話したことも秘密にしてほしい…」
とぎれとぎれに申し訳なさそうに話す彼に、もうこれ以上は何も言えない。
「……分かりました、今日貴方と話した事は誰にも言いません」
空蒼は彼の言う通りにそう約束した。
彼のその真面目さが伝わってきたからか、拒否することはできなかった。
「感謝する」
本当は顔を拝みたかったけど、彼の立場なら仕方ない。
こうやって話が出来ているだけでも凄い事なのだから。
「でも…一つだけ聞いてもいいですか」
「何か」
今度はちゃんと答えてくれた。
そんな状況に自然と頬が緩む。
「…貴方の、本当の名前を教えて下さい」
「……。」
ダメ元でそう聞いてみた。
だが、彼の名前は既に知っている、それなのにどうして彼に聞くのか。
それは、もしこれから先、また今みたいに話すことができたら、その時はちゃんと本当の名前を呼んであげたい。仕事上、名前は沢山持っているに越した事はないだろうけど、その中でもやっぱり呼ばれるなら本当の名前が良いと…空蒼は思う。
だから、空蒼が一方的に知っているだけでは、彼が名乗らない限りいつまで経っても彼の名を呼べない。こうして聞かないと彼の名すら呼ぶことが出来ないのだ。
「…どうしてそんな事を聞くのですか」
すぐに否定されないだけまだいい。
普通ならすぐに拒否されるところだろう、それなのに彼は理由を聞いてくれている。
なんて答えたら本当の名前を言ってくれるだろうか。
ただ、さっき思った理由じゃきっと彼は名前を口にしてくれないだろう。
なので空蒼は、もう一つの気持ちを素直に口にした。
「貴方はこの先、自分とまたこうして話すことはもう二度と無いと思っているのでしょうが…また必ず貴方とは話すことになる…そう自分は確信しています。貴方が屋根裏に居る限り…貴方が存在し続ける限り…確実にまた話す機会は訪れます、絶対に…」
真剣な目をしたまま、天井の穴に向かってそう言った。
また話したいとか顔が見たいとかそんな理由じゃない。
ただ空蒼はそうなると確信しているだけ。
「……根拠は?」
「勘です」
「…え、えっ?」
空蒼の返答に戸惑っているみたいだ。
「勘です。女の勘…それ以上でも以下でもありません。そう思うからそう言った…ただそれだけです。そして…そう確信しているから、今度会った時はちゃんと名前で呼びたい…なので聞きました」
そう勘だ、女の勘。
女性なら一回は感じたことのある現象だろう。
その勘がまた会えるとそう言っている。
「…勘……名前…」
その言葉がどういう風に捉えられたかは分からないが、それ以外に言える理由なんて無かった。
本当にそう思ったから、そう言っただけなのだ。