あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした



「ふふふふ…」
「…?」

すると急に天井から笑い声が聞こえてきた。

(わ、笑っている?)

天井からする笑い声なので、些か不気味である。

「まさか、根拠の理由に女の勘と答えるとは…思いもよらなかったです…それに名前を呼びたいと言われたのは初めてです」

さっきの張りつめた雰囲気とは違って、和やかになった気がするのは気のせいだろうか。
口調もなんだか砕けた感じがする。

「……俺は諸士調役兼監察の山崎丞(やまざきすすむ)、以後お見知りおきを」
「っ…」

その言葉に空蒼は目を見開いた。

名前を教えてと言ったのに、仕事についても話してくれたその事実に自然と笑みが零れる。

「…"あたし"は朔雷空蒼…よろしくお願いします」

ずっと天井を見ているのでそろそろ首が限界だ。

「知ってる」

そう言ってクスッと笑っている声が天井から漏れてきた。

現代のネットには温和で真面目と書いてあったけどまさにその通りだ。
とても温和で時に真面目で、これは好かれる訳だ。

「…そこは寒くない?」
「…慣れたので」

慣れるくらい天井裏に居る事が多いのだろうか。

「…話しすぎました。まだ病み上がりなので早く横になって下さい」
「…いつからそこに居るんですか?」
「それが俺の仕事ですから」

さっきよりは話をしてくれる山崎さんだが、それでも仕事と私情をちゃんと分けている。

(…ターゲットの体調も監察する事も仕事の内って事ね)

空蒼は彼の言葉に従い、布団の上に横になる。
そろそろ首が限界だったので助かった。空蒼は寝転がりながら、天井を見つめた。

「…土方さんが来るのはまだ先になると思います。それまでゆっくり休んで下さい」

優しい口調でそう言う山崎さん。
彼の顔は見ることは出来ないが、きっと微笑んでいると思う。

「…最後に一つだけ、今何時でしょう?」

こっちに来てから時間がよく分からない。
明るければ日中、暗ければ夜、そんな曖昧な区切りしか出来ていない。
なのに人に聞かないと今が何時なのかも分からないのだ。

「…?そうですね、もうすぐ昼九ツなので牛ノ刻でしょうか?」
「……。」

(……えーと、昼九ツで牛ノ刻…昼って事は今昼だな?)

そんな単純な言葉しか分からないのだから本当に呆れるしかない。

新選組についての本は色々と読んでいたけど、時間に関しては本当に覚えられなくて諦めた記憶がある。
現代の干支を時刻に置き換えているのだが、季節によって日の長さは全然違うのでより複雑になるみたいで、こうして聞いても分からないのだから、もう何も言えない。




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