あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…と言う事は、そろそろ昼餉の時間という事でしょうか?」
不安なので一応確認する。
「そういう事になりますね……あぁ朔雷さんの昼餉なら持ってきてくれるはずですけど、まずはその前にひと眠りしましょうか?熱は下がったとはいえ、病み上がりなんですから」
「……。」
そう言われて、空蒼は言葉に詰まった。
まるで空蒼の事を心配しているかのように聞こえたから。
(…間者と疑ってる奴なんかを心配する義理は無いのに)
彼がこうやって天井裏で空蒼を監察するのはそういう事。
そんな奴の事を気にするとはどれだけ温情なのだろうか。
「…何か気になることでも?」
空蒼が急に黙ったので気になったのかそう聞いてきた。
「……いえ、何でもありません。疲れたので少し休みます…色々とありがとうございました」
そう一方的に告げた後、天井から視線を逸らし、身体を横にする為に寝返りをうった。
この優しさに慣れちゃいけない、慣れてしまったらまたいつか裏切られる。
また裏切られるなら最初から期待なんてしない方が自分の為だ。
空蒼は何に対しても期待なんてしない。
「……。」
そんな彼女を、天井の穴から見つめる彼。
女子の身でありながらあんなか弱い身体で、どれだけの思いを抱えているのだろうと思ってしまう。
そんな彼女にどんな言葉をかけてあげるのが一番最適なのか、自分には分からない。
「…お休みなさい、良い夢を…お嬢さん」
誰でも言えるような言葉しか思い浮かばず、ありきたりな言葉を投げかける。
「……。」
それに対して何も言わない彼女。
そんな彼女の悲しそうな背中を、自分が空けた穴から確認した後、丸く長細く削った木の枝をその穴に挿した。
「……。」
複雑な思いを胸に残して屋根裏を後にした。
彼の気配が無くなった。
少し身体を動かして、チラッと天井を見る。
すると、先ほどまで空いていた穴が何かで塞がれているのに気が付いた。きっと、監察していない間はあんな感じで詰め物をしているのだろう。
(それにしても…自分から話しかけといて、急に突き放すような態度を取るとか…本当にあたし嫌な奴だな…)
冷たい態度をされたら苛立って、急に優しくされるとどうしていいか分からず、自分から突き放す…こんな奴嫌われて当然だ。
自分の事でさえ嫌いなのに、そんな奴の事を好きになってくれる人なんている訳がない。
こんな自分が本当に嫌いだ。
「……消えて、いなくなりたい…」
自分に掛かっている綿の入った夜着に潜り込み、うずくまりながら目を瞑る。
(皆の優しさが…怖い…)
本当は疑いたくない、自分の大好きな新選組を疑ったりなんかしたくない。
でも、こればっかりは直しようがない、きっともう”二度と”人を信じることはできないのだから。
信じる勇気のない臆病な自分が嫌いだ。
空蒼はそう思いながら、静かに涙を流していた。