あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
そして次の日の朝。
空蒼はまだ病人扱いされていた。
「空蒼くん!雑炊でも食べるかい?」
「それか金平糖食べる?総司には内緒で持って来たんだ」
いつもは閉まっている襖が今日は開いており、暖かな日差しが差し込んでいるこの部屋に三人の姿があった。
近藤さんが笑顔で雑炊の入った鍋を持ち、見たことのない幼さが残るこれまた美男子と言っても過言ではない美しい容姿の男性が、金平糖の入った和紙の包みを持ち、布団を敷いて座っている空蒼を囲んでいた。
空蒼の後ろには、昨晩のように机に向かって仕事をしている土方さんの姿もある。
「それは…総司が知ったら拗ねるんじゃないか?」
「そんなの内緒にしとけば問題ないだろ?」
近藤さんの言葉に自信満々に言うその若き少年は、人懐っこそうな雰囲気を出している。
(問題大ありだと思う…)
初日に会って以来、姿を見かけない総司だが元気にしているだろうか。
こんな風に思うのはきっと、悲しそうな顔でこの部屋を飛び出していったその顔と後ろ姿が目に焼き付いているからだろうか。
「そういうものか?」
うーんと唸りながら腕を組み考える近藤さん。
「そう言うもんだって」
そんな近藤さんにうんうんと頷く美少年。
(いや…絶対に違うと思う)
二人を交互に目線で追いながら、心の中で突っ込む。
隠し事はいつか必ずバレるはずだし、甘未好きの総司ならそう言う事にはすぐに気づきそうなものだが。
(まぁ…現代で言われていることが必ずしもイコールとは限らないけど、金平糖に結び付けて総司の名前を出していたから、嫌いではないと思うけど)
「金平糖好き?」
ぼーとそんな事を考えていたら、右側に座る美少年が空蒼の顔を覗き込みながらそう聞いてきた。
「…えっと……まぁ…」
唐突にそんな事を聞かれたものだから、とりあえず頷いてみる。
「良かった、じゃあこれあげる」
ニコッと微笑みながら、空蒼の前に和紙で包まれた金平糖を差し出してきた。
有無を言わさない圧を感じたのでそれを素直に受け取る。
「ありがとうございます…」
空蒼がそれを受け取ると満足そうな顔をする美少年。
そんなに渡したかったのかなと思いながらその中身を見てみると、その中にはピンクや白色、黄緑色やオレンジ色のあたしでも見たことのある和菓子が入っていた。
馴染みのある和菓子を見ると安心するのはきっと、タイムスリップしてから初めて見るものばかりで落ち着く余裕がなかったからなのかもしれない。
「いーえ、まぁ出来れば総司が居ない時に食べてね」
ニコッと笑うその笑顔の裏にいたずら心が見える気がする。