あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
視線を近藤さんに向けると、そんな美少年に対して何故か呆れた顔をしていた。
「平助、お前はまた総司と変な遊びでもしているのか?」
はぁとため息を付きながら、持っていた鍋を畳の上に置いた。
「変な名前付けないでよ近藤さん、俺はただからかわれた仕返しをしてるだけだよ」
むすっとする美少年の顔を空蒼はじっと見つめる。
近藤さんはこの美少年の事を平助と言っていた。平助と聞いて空蒼が思い浮かべる人物は一人しかいない。
局長である近藤さんに対してため口を利ける人物で、総司とも仲が良いという事は、最低でも幹部クラスの人間。そして、まだあたしが会っていない人物で美少年とくればあの八番隊組長藤堂平助しかいないだろう。
「…ん?俺の顔に何か付いてる?」
どれだけじっと見つめていたのだろう、そんな事を言われてしまった。
「…いえ、お気になさらず」
そう言って、ふいっと彼から視線を逸らした。
(…気を付けないと、下手したら色んな意味で怪しまれる)
この時代は一つ一つの行動が命取りになる。
新選組を知るうえで学んできたから言える事だ。
「あっ、もしかして俺の名前?確かにまだ名乗ってなかったね」
すると、ひらめいたと言うように、掌を握りこぶしで叩く仕草をした。
「俺は八番隊組長藤堂平助、俺も空蒼のその目の色綺麗だなって思うよ、これからよろしく」
そう言い、幼さの残る笑顔を空蒼に向けてくれた。
流石にもう目の色について言われる度、驚くことはなくなった。けど、面と向かって言われると少し恥ずかしい。
それに、茶髪の長い髪を後ろで結み、空蒼と年齢は大して変わらない藤堂さんを見ていると、現代の若者と全然何もかも違うのだと心の底から思う。
こういう年齢の人たちが刀を持たなければ生きていけない時代。
空蒼はこんな時代ときちんと向き合っていけるんだろうか。
「空蒼?どうかした?」
目線を下に向けて考え事をしていたら、二人が空蒼を見つめていた。
心配そうに見つめる藤堂さんに、左側には眉毛を下げて不安げな表情の近藤さん。
そんな二人にあたしは口を開いた。
「あの…自分の、俺の処遇は…どうなりましたか」
部屋に響く自分の声。
それを聞いて黙る両側の二人。
「「……。」」
一人称を”自分”から”俺”に変えたこと以外、別におかしなところはないはずなのに、どうして二人揃って黙ったままなんだろう。
それに、何故か知らないが二人共空蒼の後ろに居る土方さんを見ている気がする。
「まさかとは思うがトシ、お前はまだ何も伝えていないのか?」
すると、その沈黙を破るように、少し怒った近藤さんの声が聞こえてきた。
その様子を見ていた藤堂さんが何故か青ざめた顔をしている。
(…?どうしてそこで土方さんに話を振るんだろう?あ…そう言えば…それを近藤さんに聞いた時、トシに聞いてくれって言われてたっけ?)
そう気付いた時には遅かった。
何故か近藤さんが土方さんに対して怒りを露わにしていた。