あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
確かに感じる痛み。
それに少し刃こぼれしていた。
空蒼は倒れている男を見る。
(まさかとは思ったけど…やっぱりこれ真剣だ)
それにさっきの殺されそうになっていたあの女性の怯え様。
撮影とは思えないほどの緊迫感。
野次馬達の決して清潔とは言えない服装などなど。
それらを踏まえると答えは一つしかない。
「…死ね!」
――ビクッ
その声に身体が反応して後ろを向くと、赤黒いオーラを身にまとった男が空蒼に刀を振りおろそうとしていた。
それを見た瞬間思った。間に合わないと。
(店の中にまだ男の仲間がいるの忘れてた…ここで死ぬのは癪だがここで死ねば現実に戻るだろうか…)
空蒼は目をつぶって頭を守るようにして下を向き、その衝撃に備えた。
――ザシュッ!!
「ぐぁぁあああ!!」
(……?)
殺られると思って身構えていたのに、何故か何も来ない。それとは別に男の叫び声が聞こえてきた。
「…全く…名を改められたばかりなのに、こうも成りすましが多いとこっちも困りますねぇ」
それと、この場に似合わない低くも高くもない声も聞こえてきた。その声に空蒼は顔を上げた。
「………。」
先程まではいなかったであろう美少年が、刀に付いた血を手ぬぐいで拭っている。
(…誰だ?)
空蒼は持っていた男の刀を握りしめ、念の為いつでも闘えるような体勢になる。
スラリとした高身長に肌は白く、整った顔立ちをしている目の前の美少年。
腰くらいまである髪を後ろに一本にまとめて結っているみたいだ。
既に差してある脇差と、血を拭った刀を鞘に納めてもう一本も腰に差すその様子から、この人はきっと帯刀を許された人なのだろう。
それにしても、その顔立ちから若さが伺える。
空蒼とそう歳も変わらないと思うのだが、その年齢で帯刀を許されるとはどれくらいの腕前なのだろう。
「…ん?そんなに見つめても何も出ませんよ?」
「……。」
そんなに見つめていただろうか。
そう言われるとなんか恥ずかしい気がする。
ニコリと微笑むその美少年は、先程人を斬ったとは思えない雰囲気だ。
まるでそれに慣れていると言えなくもない。
いや慣れているとしか思えない。
人を斬ってもその冷静さとは只者じゃない。
「それにしても…そこに倒れている男を相手したのは貴方ですか?」
探る様なその目つき。
ニッコリと微笑んでいるはずなのに、目が笑っていない。
この美少年はきっと敵に回したらダメな人だ。
そう信じて疑わないその佇まいなのに、その人を纏っているオーラの色が空蒼を悩ませる。
空蒼は周りをチラッと見る。
何故かさっきよりも野次馬が増えているのは気の所為だろうか。
「あのー…聞いてます?」
その声に美少年に視線を戻す。
「……そうだとしたら?」
今はとりあえず、ここからどうやって抜け出せるか考えなければ。