あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした



土方さんのいる後ろに向かって身体ごと反転させる。
きっとこれは自分も聞かなければいけない話なのだろうと思ったからだ。

後ろを向くと、土方さんと近藤さんはお互い見つめ合っていた。
少し、土方さんが小さく見えるのは気のせいにしといてあげようと思う。

「もう一度聞く、お前は空蒼くんに何も説明していないんだな?」

今は自分の名前を呼ばないでと心から思う。
普段優しい人が怒るととても怖いと聞くが、まさにその通りだった。
あの土方さんでさえ何も言えないところを見ると、近藤さんには頭が上がらないようだ。

「時間が、なかったから…」

弱々しく話す土方さんを否定したくはないけど、それは言い訳にしか聞こえない。

「そんなの言い訳だ、話さない理由にはならない。それに時間がなかった?昨日も一日空蒼くんはこの部屋にいたのにそれはないだろう」

キッとした目つきできっぱりと否定する近藤さんに、これが新選組局長かぁと感心する。
それに対して、正座をしてピンっと背筋を伸ばしている土方さんが何だか子供のように見えてきてしまう。

「それは…俺が戻った時には既に眠ってて、全然目を覚まさなかったから…」

(…?もしかしてあたしの事を言ってる?)

そう思ったらチラッとこっちを見て睨んできた。
分かりやすい、やはり自分の事を言っているみたいだ。
そんな二人のやり取りにどんな顔して聞いていればいいのか分からないので、先ほど貰った金平糖を口に放り込む。

(っ…!美味しい…)

久しぶりに食べる金平糖が想像以上に美味しくて、つい手が進んでしまう。

「それはそうだろう、空蒼くんは病み上がりだ。眠り続けて何が悪い」
「っ……」

容赦ない近藤さんの言葉にしゅんとなる土方さん。
さっきよりも小さくなっているように見える。

(そう言えば、今更気付いたんだけど近藤さんって怒ると一人称が俺になるんだな、普段は私なのに)

さっきから話を聞いていると、言い方が俺になっている。
癖なのかもしれないなと思いながら、もぐもぐ口を動かして二人の様子を見守る。

「俺はそんな言い訳が聞きたくて話しているんじゃない、どうして説明しなかったのかと聞いてるんだ」
「それは……」

でも何だか、だんだんと土方さんが可哀そうに見えてきた。

(……。)

空蒼は土方さんを見つめる。

ここまで運んでくれて、看病までしてくれたって聞いた。
最初は酷い人だなと思ったけど、それは新選組の副長の立場での行動だと知った。

もしかしたら彼は不器用な人なのかもしれない。多分この二人の会話からだと、もう既に空蒼の処遇は決まっている。近藤さんに聞いた時もそんな雰囲気だった。
それなのに空蒼はまだ何も聞かされていない、昨日の夜、厠で目を覚ました時にでも言えばよかったのに。
だからきっと彼は、土方さんは不器用な人なんだなと思う事にした。土方さんだって悪気があって言わなかった訳ではないと思うから。
なんなら空蒼から自分の処遇について聞いとけば、土方さんも話しやすかったのかもしれない。


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