あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…トシ、いい加減に…」
「近藤さん」
空蒼は近藤さんの言葉を遮った。
だからこれは、空蒼のせめてもの土方さんに対する感謝の現れ。今までの借りを返す絶好の機会なのだ。
「…ん?どうしたんだ空蒼くん、悪いが今はトシと…」
「そんな事より、結局のところ俺はどうなるんでしょう…土方さん」
またしても近藤さんの言葉を遮った。
そして、近藤さんから視線を逸らし、真正面に正座している土方さんに話を振った。
「っ……」
急に話を振られて驚いているのか、目を見開いていた。
「俺は、ここから追い出されるんでしょうか…それとも、間者と疑われたまま切腹を申し付けられるんでしょうか」
「っ…違う!!」
空蒼が言い放った瞬間、そう怒鳴って否定してきた土方さん。
眉間に皺が寄り、怒っているのだとすぐに分かった。
だけど、その瞳の奥に悲しそうな感情が見えるのは、気のせいなのだろうか。
「えっと…じゃあ何なんでしょうか」
土方さんを見つめながらそう聞く隣で、近藤さんが何かぶつぶつ独り言を言っているのは見なかった事にしよう。
「……もらう」
「…え?」
声が小さくてよく聞こえない。
「だから!お前はここに居てもらうって言ってんだよ!」
耳を少し赤くさせて、怒鳴りながら空蒼にそう言ってきた。
「え……それはつまり、新選組に入れと?」
聞き間違いじゃなければそう解釈のできる言葉だ。
あたしは確かめるように聞き返した。
「……そう言ってんだろ」
そう言うと、何故かふいっとそっぽを向かれてしまった。
そのお陰かさっきよりも耳が赤くなっているのが確認できた。
はて?と首を傾げながら、照れる要素はどこにあっただろうかと考える。いや、怒りで赤くなっているのか?と考えるのに忙しい。
それにしても、土方さんに新選組に入れと言われてしまった。
まさか、出て行けでも切腹でもなく、入隊しろだとは思いもしなかった。
(……。)
多分、物置小屋に入れられた時にそんな事を言われたら、確実に嫌だと否定していただろう。
だけど、今は少しでも彼らの優しさに触れてしまったから、すぐにノーとは言えない自分がいる。
「……俺は…」
空蒼は俯いた。
このまま新選組を見てみたいという気持ちもあるし、今すぐにでも出て行きたいという気持ちもある。
「言っとくが…お前の意見は聞いていない。これは決定事項だ」
「……。」
土方さんのその言葉に顔を上げる。
突き放すようなその言葉の裏に、優しさを感じるのは空蒼の見間違いだろうか。
そして、真っ直ぐと空蒼の目を見つめる土方さんに、空蒼は初めて負けた気がした。
「……分かり、ました」
そう一言呟いた。