あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…そう言う理由なら俺は何も言えない」
すると、黙って聞いていた永倉さんが土方さんの言葉に同意してきた。
(そう言う理由ならって…どんな理由?)
眉間に皺を寄せて考えるが何も分からない。
「俺も…土方さんの言ってる事は正しいと思う」
近くに座っていた藤堂さんも、状況を理解したのか土方さんに賛同している。
全然話の内容が見えてこないのだけど。
「…ん?あぁ!そう言う事か!やっと分かったぜ!」
原田さんも今まで分からなかったのか、納得した声を上げた。
(…原田さんが分かるなら、あたしも分かるはずなんだけど)
何故か原田さんに対抗意識をしている空蒼。
凄い敗北感を感じるのは何故だろう。
「近藤さん、今のところこいつに会っていいのは、幹部の連中だけだ」
他の三人が自分の言葉に納得してくれて嬉しかったのか、頬が少し緩みながら近藤さんに言う。
(幹部の連中だけ?さっきから一体何の話をしてるの?)
自分の分からない話に皆だけ理解しているのにもイラつくし、それを理解できない自分にも腹が立つ。
「…ぐぬぬ……本当は皆で食べたいが…俺もトシの言う事に一理ある…」
そう言いながら、空蒼の方を見てきた近藤さん。
「悪いな空蒼くん…空蒼くんはまだ食事をする部屋には行けないみたいだ…」
申し訳なさそうな表情でしゅんとなる近藤さん。
(えーと…どうしてしゅんてなっているのか全然分からないんだけど。近藤さん…あたしに対して警戒心が無さすぎでは…)
それに先ほどの土方さんの言葉を整理すると、何故か空蒼は隊に振り分けられるまでは他の隊士に会ってはいけないらしい。色々と面倒な事になりかねないって言っていたけど、自分が何かするとでも思っているのだろうか、失礼な。
むしろ空蒼はそれでいいと思っている。他の隊士と仲良くする気なんて微塵もないし、この人達に会えただけでもお腹いっぱいだ。
空蒼はしょぼくれている近藤さんに向かって口を開いた。
「…よく分からないですが、俺には近藤さんが持ってきてくれた雑炊があるので大丈夫です」
目元まで伸びている前髪を気にしながら空蒼はそう言った。
(まだ目が隠れていないことに慣れたわけではないけど、そんなにもう気にならなくなったし、そろそろこの長い前髪ともおさらばかな…)
目を隠すために、フードと一緒に今までなくてはならない存在だった目を隠すほど長い前髪。
彼らが…綺麗だって言ってくれればそれで充分、もう何も気にしない。
それにしても、流石の空蒼もそろそろお腹が空いてきたし、皆まとめて早く部屋を出て行ってほしい。
これじゃあ落ち着いて食事もできない。
そう自覚すると空腹感が増してきたのでとりあえずギロッと土方さんを睨んだ。