あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…あ?なんだよ」
流石土方さん、すぐに空蒼からの視線に気付くとは。
「…もういいでしょうか?俺もそろそろ雑炊を食べたいので、皆さんも早く昼餉を食べに行ったらどうですか」
そう言い軽く微笑む。
要は早く出て行けと言う意味だ。
「…お前、俺らを厄介者扱いしているだろ」
頭の回る土方さんは空蒼の言った言葉の意味がちゃんと分かるみたいだ。
眉間に皺を寄せて睨んできた。
「俺はただ、腹が減っては戦はできぬと思っただけですよ」
そんな土方さんに誰かが言った名言を口にした。誰が言ったかは覚えてないけど。
「……。」
土方さんは無言のまま何も言わない。
「空蒼、やっぱりこの部屋で一緒に食べようか?」
すると、空気を読まない原田さんが気を利かせてかそう言ってきた。
こういう時の原田さんの存在は大いに助かる。
何か言えばすぐ返してくる土方さんから逃げられて感謝しかない。
「いや…本当に大丈夫なので早く行ってください。お腹空いているのでしょう?」
本当に早く出て行ってほしい、空腹でイライラしてきた空蒼。
「左之助、空蒼もこう言ってるし早く行こうぜ」
「そうだな…じゃまた後でな!」
永倉さんが話の分かる人で助かった。
素直だけど意外と頑固な原田さんを言いくるめられるのはきっと永倉さんだけな気がする。
原田さんは昔、切腹のやり方なんて分からないだろうと言われて、実際にやって見せたという逸話が残っている。真実かどうかは知らないけど、その行動をする限り頑固者だと言えよう。
原田さんに永倉さんあり、だな。
「…また来るからね」
戸惑った表情を浮かべる藤堂さんがあたしにそう言ってきた。
「…いってらっしゃい」
その言葉に肯定も否定もすることなく三人を送り出した。
(よし…あと二人)
そう思いながら、近藤さんと土方さんの方を向いた。
「空蒼…本当に一人で食べるのか?」
(…忘れてた。この人が一番厄介な事に…)
苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「…近藤さんも早く行って下さい。皆が待っていますよ」
「…分かった、じゃあ隊が振り分けられたら一緒に食べよう」
笑顔でそう言う近藤さん。
「えぇ…」
それで早く出て行ってくれるならと肯定した。
「じゃあ行ってくる」と言葉を残して部屋を出て行った。
「トシも行くぞ!」
近藤さんの姿が見えなくなった時、近藤さんの土方さんを呼ぶ声が廊下から聞こえた。
「あぁ…今行く」
そう返事をすると、ゆっくりとその場を立つ土方さん。
(さぁ、貴方も早く行ってくれ)
うずうずしながら土方さんの後ろ姿を見守る。