あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
そして、彼が廊下に足を踏み出したその時、ピタッと動くのをやめた。
(……?)
どうしてそこで止まるんだ?と心の中で思っていたら、急に彼がこちらを向いてきた。
その無表情な彼を見るのは何回目だろう。
でも、無表情なのは感情が高ぶる時とか、こうして二人になる時とかが多い気がする。
いやむしろ、空蒼と話す時に限って無表情が多い気がする。
皆で話してた時は、割と柔らかい表情や口がにやけていたので勘違いじゃない。
(彼はさては…気に入らない奴には反抗をする子供か?あ…何かそう思ったら納得がいったかも)
これからは無表情な顔を向けられたらそう思うようにしようと誓った空蒼であった。
「…お前また失礼な事考えてるだろ」
「…やっぱり自意識過剰なのでは?」
どれだけ空蒼は顔に出ているんだろうか、こうも当てられると流石に怖い。
「はぁ…おい、そんな呑気に休んでんのは今日で終わりだ。明日からはお前も他の隊士のようにちゃんと働いてもらうからな」
呆れながらそう言う土方さん。
流石にもう学んだのか、空蒼の返しに対して何も反論はしてこなかった。
つまんないなと思いながらコクッと頷いた。
(そんな事…言われなくても分かってる…これ以上何もしないでタダ飯を食らうのも流石に申し訳ないし…)
分かったから用が済んだならさっさと行ってほしい。
土方さんはまだ廊下と畳の堺目の所に立っていた。
「…それから最後にもう一つ」
(まだあんのかよ…)
空蒼はため息をしながら土方さんの言葉を待つ。
「……総司には当分の間会うな」
「っ……」
その言葉に目を見開いた。
(総司……)
いつから総司の事を総司と呼ぶようになったかは今更覚えていないけど、沖田さんより総司の方がしっくりきていたのは覚えている。
そして、初日以来総司と顔を合わせていないことに空蒼は気付いていた。ただ、気付かないふりをしていただけ…彼の、空蒼に向けるその感情に。
「……分かりました」
土方さんの言葉に少し遅れて返事をした。
「…何も聞かないんだな」
空蒼が何も理由を聞かなかったのが意外だったのか、開け放たれている襖に寄り掛かり、腕を組みながらそう聞いてきた。
そんな土方さんから目を逸らし、空蒼は雑炊の入っている鍋に手を伸ばした。
「…あの日、この部屋から出て行く彼の表情を見て嫌でも感じましたから」
そう言いながら、自分の前に鍋を置く。
「感じた?」
間髪入れずに聞いてくる土方さんに空蒼は正直に答える。
「…相手が自分を嫌いになった瞬間を」
「……。」
空蒼のその言葉に土方さんは何も言わない。