あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした






「………。」

空蒼はきょろきょろと周りを見渡す。

流石にもうそろそろカットが入ってもいいはずなのに。
一向にして何も聞こえない。
野次馬達もシンと静まり返っている。

(……まさかとは思うけど、本物…じゃないよね?)

新選組の沖田総司と言ったら、写真が現存していないため本当の姿は今の現代では誰一人として分からない。
今出回っている沖田総司と言われている写真はあくまで姉の孫をモデルにして描いたものだと言う。
その為、沖田総司の本当の姿を知らず、他の人の証言から美男子という結論に至り、ゲームや漫画では美男子として描かれることが多い。

他の人達なら、何人かは写真が残ってるから多少は判断材料として使えるけど、あいにく沖田総司の姿を知らない空蒼からしたら何の解決にもなっていない。

沖田総司じゃないとそう信じたいのに、それを否定するだけの情報がここには無い。
それにそれを信じてしまったら、ここは現代の日本ではないと言っているようなもの。
でも、否定する事も出来ない。

「貴方のお名前は?」

そう微笑む彼の表情が全然読めない。
でもこれだけは言える。
敵でもなければ味方でもない。

「……。」

無言を貫く自分に対し、沖田総司と名乗る人物はまだニコニコしている。

(…無駄に顔がいいからかそんなに圧は感じないけど、それはそれで恐ろしいのは何故だろう…)

自分の顔をひくつかせながら、真顔のまま彼を見つめる。

「ねぇ、聞いてます?質問に答えて下さいよ」
「…答えなきゃならない理由は?」

おいそれと自分の名前を言うわけがないでしょうに。
ましてこんな出会い方なら尚更、お互い怪しさ満載。

「…理由?さっき言ったじゃないですか。俺は新選組の沖田総司、新選組が怪しい格好をしている人に名前を聞くのに何か問題がありますか?」

ニコニコしていた顔が急に真顔になるものだから少し怖い。
やはりこの人は怒らせると一番厄介な存在みたいだ。

それに彼の言葉が引っかかる。
新選組なのに何がダメなの?って言ってるようなものだ。

(新選組……本当にあの新選組なの?)

手に力が入るのが分かる。

もし本物の新選組ならここは幕末の京都ということになる。
そう考えれば、今まで見てきた風景に全ての辻褄があってしまう。

「もう一度聞きます、貴方の名は?」

今度は強めにそう聞いてきた。

これで答えなかったらきっと、彼の腰にあるものがあたしを獲物と捉えて襲ってくるだろう。
と、自然とそう納得した。

(…名前を言ったら見逃してくれるのかな)

半ば諦め気味になりながら空蒼は口を開いた。

「…朔雷(さくらい)空蒼(くう)…」

ぽつりと呟いた言葉に彼が反応した。

「…さくらい、くう?変な名前ですね?」
「…人の名前にいちゃもん付けないでもらっていいですか?」

自分の名前を自己紹介する度にそんな態度をされてきたから最近は何とも思ってなかったけど、彼にそう言われると何故か腹立たしい。
そう思うのはきっと、彼の表情が相手の反応を見るのが好きだと語っているからではないだろうか。

「ごめんなさいごめんなさい、冗談です。」
「……。」

今更庇われても嬉しくない。





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