あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした



「あの……」

あたしは手を握りしめながら口を開く。

「……下さい」
「……え?」

すると、言いにくそうに口を開いた空蒼の言葉を、聞く必要はないというように遮り、総司がボソッと何かを言ってきた。
不安げな表情で総司を見つめる。

「ここから出て行って下さい」
「……。」

今度は空蒼の目を逸らすことなく見つめながら静かにそう言った。震える身体を右手でもう片方の腕で無理やり抑えながらも、容赦なく言葉を瞑ぐ。

「俺達の…俺達の新選組に貴方みたいな人は必要ありません。出て行ってください」
「っ……」

そんな事を言ったのは総司なのにとても悲しい表情をしていた。まるで、言いたくはなかったというような顔で唇を噛み締めている。

それを見て空蒼は静かに目を伏せた。

総司がそう言うのはきっと空蒼が原因だ。
その言葉を言わせるほどまでに、彼を追い詰めていたのだと思うと胸が締め付けられる。

(出て行け……)

『出て行け』『必要ない』『消えろ』

そんな言葉を今まで何回、何十回と言われてきたことだろうか。
散々言われてきたそんな言葉を彼の口から聞くことになるとは、自分は本気で総司に嫌われているらしい。

「…出て行くことができないにしても、もう二度と俺の前に現れないで下さい。もし視界に一瞬でも入ったら…」

――チャキ

その言葉に視線を彼に向けると、腰に差している脇差の鍔を左手の親指で少しだけ上にあげて、刃が覗いていた。

「……。」

それ以上は何も言わず、複雑な表情をしながらこの場を去って行った。

「次会ったら斬る」そう遠回しに言われた気がした。いや、そう忠告されたのだ。
自分の命なんてすぐに握り潰せるのだとそう言われたのに変わりはない。

(次会ったら殺される…そんなに顔を見たくないのならどうして今殺さないんだろう…殺したいほど憎いなら、今すぐ殺してくれればいいのに……)

そう思うくらい、空蒼にとって命とは執着するに値しない。いつでも手放してもいいとすら思っている。
総司の腕なら空蒼の一人や二人、いとも簡単に殺せるのは確かで、空蒼も総司になら殺されてもいいと思っている。でも総司がこうやって猶予を与えてくれたのはきっと、迷いがあるから。彼のあの表情を見てそう思った。

「…必要ない……」

それよりも今は先程の総司の言葉に、締め付けられるほど胸が痛む。

そんな言葉今までだって散々言われてきたし、その度にそれを気にしないようにしてきた。
でも、その言葉を言われ続ける人間は不思議なもので段々と何も思わなくなる、空蒼もその一人だった。

それなのにどうして、総司に言われる言葉はこれほどまでに辛いんだろう。
散々言われてきた言葉なのに、どうして心がえぐられるように痛むのだろう。
生きた心地がしない。総司の事を思う度、切なさが胸に広がっていく。
目の事を言われるのがあれだけ嫌だったのに、それ以上に今悲しくなっている自分がいる。



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