あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした



「……。」

空蒼の視線の先には、散らばった金平糖の残骸が無残な姿で落ちていた。
空蒼は静かにしゃがみ込み、それを一つ一つ拾っていく。

『この金平糖は近藤先生にあげるつもりで、俺が少ないお金をはたいて買ったものです』

先ほどの総司の言葉が頭の中で再生される。

(近藤さんの為に買ってきた金平糖……)

考えながら、掌に拾った金平糖を乗せていく。
その金平糖は所々欠けており、金平糖の良さの一つでもある星の形が見る影も無く崩れている。

空蒼も子供の頃は喜んでそれを口にしたものだ。
色とりどりの子供の喜びそうな色の豊富さに、とげとげとした星の形が子供心を揺さぶったから。

(そう言えば……金平糖の形について気になって調べた時、金平糖を誰かにあげる意味についても書いてあったような……)

空蒼は散らばっていた金平糖を全て拾い終わり立ち上がった。

新選組に居る限り、総司に会わないなんてできる訳がない。どんなに気を付けていたとしても、絶対何らかの理由で顔を合わせることになるし、それを総司が分からないはずがない。

空蒼は別に斬られたとしても心残りなんてないし、斬りたいなら斬ればいいと思う。けど、この新選組には局中法度と言う掟が存在する。
新選組と名が冠された時に、これまでの生ぬるい隊律を見直されて掟が定められたはずだ。その掟の中に、「(わたくしの)の闘争を許さず」という隊律が存在した。
今はもう新選組という名である以上、その隊律は有効なはずだから、いつか空蒼を視界に捉えた時に斬ろうものなら総司がその隊律に触れてしまい、最後には切腹と言う未来が待っている。

歴史を守りたいわけではないが、そんなの史実通りではないし、なにより自分の存在のせいで総司が切腹になるなんてそんなの絶対に見ていられない。こんなところで総司が亡くなったら、新選組はどうなるの?史実と違ければいつ新選組が無くなってもおかしくはない。

「……。」

空蒼は、明るくなってきた空を見上げながら決意した。

自分のせいで総司を悲しませるくらいなら、自分の存在によって新選組が無くなるくらいなら、ここにいるべきではない。そんなの空蒼自信も誰も望まない。
だから空蒼は決めた。

総司に言われた通り、ここを出て行く。

そうなれば誰も傷つかないし、総司とも会う事はない。
ここを出て行った後、どうするかなんて分からないし、どうやって戻るかも分からない。けど、こうするしか方法がない…総司を新選組を守るにはこうするしか…。

「……よし」

空蒼は気を取り直して、急いで土方さんの部屋に戻った。



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