あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…お礼だなんて顔を上げてください」
空蒼は慌てながら如月さんにそう告げた。
お礼を言われたいがために助けた訳では無い上に、あれは空蒼の自己満足に過ぎない。お礼を言われる立場ではない。
「優しい方なのですね」
顔を上げた如月さんは優しい笑顔になっていた。
「いえ…」
自己満足で助けたのを優しいと言えるのだろうか。
少なくとも善意で助けた訳では無い、空蒼はそんな如月さんが思うほど優しい人間でも無い。
あの時、もし借りたのが竹箒ではなく刀だったなら、斬らずにはいられなかっただろう。
たとえその人が偉い人だろうとなんだろうと、新選組の事を悪く言ったなら、制御は効かなかったはずだ。
それくらい、空蒼にとって新選組は何物にも代えがたい存在なのだ。
「そうだ!お礼と言ってはなんですが、是非お店に寄って行って下さい、ご馳走しますよ」
営業スマイルなのか、それとも自然な笑みなのか、これほどまでに他人に対して笑顔を向けられる如月さんは凄いと思う。
空蒼は感心しながらどう断ろうか考える。
「えっと…まだ営業時間じゃないのでは?」
如月さんは外の掃除をしていたので恐らくまだ営業時間外のはずだ。
自己満足で助けただけの自分にそこまでしないで欲しい。
「そうですが…お礼をさせて欲しいのです。勿論、これでお礼出来たとは思いません…でもせめてその気持ちだけは知ってほしいのです」
「……。」
まっすぐと空蒼の目を見つめる如月さんの表情に何だか負けた気がした。
揺るぎないその目は空蒼にとってとても眩しかったのだ。
空蒼はふぅとため息を付いた。
「…分かりました。ではお言葉に甘えてお邪魔します」
「っ…はい!」
それほど嬉しかったのか、如月さんは笑顔で答えた。
「どうぞ、お入りください」
―ガラガラガラっ
微笑む彼女に入口の扉を開けてもらった。
「お邪魔します」
中に足を入れて、店の中を見渡す。
座布団の敷かれたお座敷が左側に、右側に机と椅子が三〜四個並べられていて、こじんまりとはしているが、よく時代劇や古い甘味処で見るような落ち着いた雰囲気のあるお店だった。
(……めちゃくちゃ、良い…)
空蒼は縁側も好きだが、こう言った昔ながらのお店もとても好きなのだ。簡単に言うと和がとても好きな女の子。それを見るだけでテンションが爆上がりだ。
「どうかしました?」
入口付近で止まっている空蒼に如月さんがそう言葉をかける。
「……こういう雰囲気のお店、とても好きです」
ニヤつく顔を何とか抑えながら、如月さんの方を向く。
(この感じ…この雰囲気…そしてこの和の匂い…めちゃくちゃ自分好み過ぎる…)
「…そんなに喜んでくれるなんてとても嬉しいです」
ふふふと微笑みながら上品に笑うその姿はとても綺麗だと思う。
同じ女性として言わせてもらうが、如月さんは良い母親になりそうだ。