元稀代の悪役王女ですが、二度目の人生では私を殺した5人の夫とは関わらずに生き残りたいと思います
二度目の私たちは──
「よいっしょ、よいっしょ……!!」
朝。今日は晴天。ぽかぽかとして気候は良好。
そんな中、私は大きなシャベルを手に庭の花壇の掘り起こしを行っている。
手には手袋を二重に。
口にはガスマスク。
念のためゴーグルもつけて、厳重装備だ。
そしてそんなおかしな格好をした私を、セイシスが黙って見守っている。
あらかじめ、セイシスには手を出すなと言ってある。
これは、私が勝手にやり始めたことだと。
セイシスに罪はないし、もし何かあっては困るから。
セイシスは私の思いを汲んでしぶしぶ了承はしてくれたけれど、何かあったらしゃしゃり出るからな、とむくれていた。
一株、二株。
美しく咲いた花を丁寧に掘り起こしていく。と──。
バタバタと大きないくつもの足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
来たわね……。
「リザ!! これはいったい……!!」
「まぁ……何てこと……」
お父様とお母様が信じられないものを見たように悲痛な声を上げた。
それでも私は手を止めることなく掘り続ける。
「申し訳ありませんお父様お母様。至急、調べねばならないものができました」
淡々と。
土を掘り進めながらただ行動理由の身を告げると、父がこちらに近づいてくるのが視界の端に映った。
「り、リザ……!!」
「お待ちください陛下」
「っ、セイシス!?」
私の方へ近づくお父様の前に立ちはだかる、私の騎士。
本来ならば国王であるお父様にこのようなふるまいは許されないけれど、きっとセイシスは、そんなことよりも私のやることを守ろうとしてくれている。
理由も話していないのに。
私を信じてくれているんだ。
なら私も、やるべきことのために、絶対にやり切る──!!
「っ、できた!!」
ついに私は、無事全種類の花を1種類ずつ掘り起こし終えた。
手袋も服も泥だらけだけれど、無事に彫り終えた達成感でそれどころではない。
「あぁ……なんてことを……」
愕然としたお父様の声に罪悪感が押し寄せるけれど、私はそれらを大きな袋に一株ずつ取り分けて入れていく。
そこへ──。
「リザ王女殿下。カイン王子殿下とディアス公爵令息がいらっしゃいました」
「ありがとう、通してちょうだい」
「はい」
二人の訪れを知らせに来た侍女に通すように指示を出すと、しばらくしてカイン王子とサフィールが二人そろって現れた。
「うわぁ……これは……」
「派手に……なさいましたね……」
「は、はは……」
目の前に広がる無残な光景に頬を引きつらせる二人。
まぁそうね。あんなに美しかった庭園が穴だらけだものね。
しかも私も泥だらけで見るも無残だし……。
だけどそうも言ってられない。
時間もないしね。
「サフィール、これ全部、お願いできるかしら?」
「わかりました。一株ずつ袋に入れてくださったんですね、助かります」
「カイン殿下、もうしばらく研究員をお貸しいただけるかしら?」
「えぇもちろん。隙に使ってください」
二人には昨日協力を要請した。
陛下の庭の花について調べるように、と。
丁度サフィールにそれをお願いしに行った時に、カイン王子も同席していて、二人して協力してくれることになったのだ。
何か必ず……。
あるはずだ。毒が。
だっておかしいもの。
お父様の手がしびれだしたのと、フローリアンから届いた花で庭が完成して父が手入れを始めたのは──同じ時期だから……。
「り、リザ、お前……。カイン殿やサフィールまで巻き込んで一体……」
「お父様、ごめんなさい」
戸惑うお父様に、私は今初めてちゃんと向き合って、そして頭を下げた。
「ここの花を……調べます。徹底的に。だから検査の結果が出るまで、ここには近づかないでください」
「!!」
「何言ってるのかわからないかもしれない。わがままだとお思いかもしれない。でも……私を信じてほしいのです」
あからさまにフローリアンとフロウ王子を疑っているだなんていえない。
今はただ、信じて、としか。
「リザ……」
お父様にとって一番大切な、我が子のように手塩にかけて育てた庭園。
母と二人の楽園なのにこんなにしてしまった私を、許してくれるれなくても仕方がない。
でも可能性があるのに放ってはおけない。
たとえその結果、親子の関係にひびが入ったとしても……。
私がぐっと手を握りしめたその時だった。
「もちろんじゃないの。私も、お父様も、あなたを信じているわ」
ふんわりとした声が、私の頭上に降りかかった。
「お母様……。何で……」
顔を上げると、お母様が私に向けて優しく微笑んでいた。
隣の父も、困ったような顔をして微笑んでいる。
怒って……ない?
どうして?
「ねぇリザ。私、もしかしたら今ここにいなかったかもしれないのよ」
「!!」
え、何で?
まさかお母様も一回目の記憶が……?
混乱する私に、お母様は続ける。
「あなたが2歳の頃、私は叔母であるグラナルド公爵夫人のもとに行く予定だったの。でも直前、あなたが行かないでと駄々をこねて……。普段駄々をこねたりわがままを言ったりしない子だったから、心配になってその予定を取りやめたの。そうしたらね……、私が通っていたであろうはずの時間、公爵領へ続く橋が落ちたの」
「!!」
お母様は一回目……そうだ、落ちたんだ。
橋から……馬車ごと……。
「あなたが駄々をこねなかったら、もしかしたら私は死んでいたかもしれない。それだけじゃないわ。あなたには昔から、どこか予言めいていたし、危機察知能力があるんじゃないかと思っていた。でもね、それがなくても、私たちはあなたを信じているわ。だって、私たちの大切な一人娘だもの」
「お母様……っ」
一回目は助けることのできなかった母の言葉にたまらなくなって、私は母の胸に飛び込んだ。
そんな私たちを、微笑ましく見守りながら私の頭を撫でてくれるお父様。
たった一人の王位継承者。
その重責はあれど、やっぱり私、この二人の娘で幸せだわ。
必ず、この優しい父と母を守ってみせる……!!
二人のぬくもりを感じながら、私はそう硬く決意した。