十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。

次こそ結婚してみせる

 木々の生い茂る、蒸し暑い午後の公園。
 縁談相手から頭を下げられたフィーナは、呆然と立ち尽くしていた。

 緑は眩しく爽やかな風は吹いているのに、フィーナの周りだけが冷ややかな空気へと変わってゆく。
 目の前で頭を下げ続ける青年はずっと「悪いけど……本っ当に悪いけど……」と呟き続けていて、フィーナに縋りつく隙すら与えない。

「いいえ……そうおっしゃるなら仕方がありません。でも、どうして私とは婚約できないのですか? 参考までに、理由を聞いてもよろしいですか。なぜ、私はこの縁談を断られたのでしょう……?」

 縁談相手の彼は、騎士団二年目の気のいい青年だった。
 最初の出会いからは、まだ一ヶ月も経っていない。フィーナは縁談相手として完璧とはいかないまでも、ボロは出していないはずなのだ。それなのに。

「……僕には、君とやっていく自信が無いんだ」

 申し訳無さげな彼からの言葉に、フィーナはへなへなと打ちひしがれた。
 まただ。この断り文句を聞いたのは──



(なんで、なんで、なんで)

 縁談自体を断られては、あの後予定していたデートだって行けるはずがない。
 彼とはデートスポットとして評判の花畑へ行って、そこでちょっと雰囲気のいいカフェへ入って、仲を深める予定だった。それもすべてキャンセルだ。

 (私は、楽しみにしていたのに)

 彼を好きだったわけじゃない。でも、ここから気持ちは育ってゆくものだと期待していた。
 デートに相応しいよう、服装にも気を遣った。手持ちの中でも一番お気に入りのフレアスカートをはいて、栗色の髪だって朝早くから起きてゆるく巻いた。でも、それも無駄だった。

 フィーナは馬車に揺られ、公園からまっすぐトルメンタ伯爵家へと帰宅した。

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