十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
「遅いですね」
「…………」
「もしかして……遠くから私を見て、帰っちゃったんでしょうか」
「それは無い」

 しょんぼりするフィーナに、カミロはきっぱりと言い切った。

「見合い相手はもうここにいる」
「先程からなにか知っている口ぶりですけど、カミロ様は今回のお相手をご存知なのですか」
「知っているもなにも、今回の見合い相手は俺だ」


 カフェに、静寂が訪れた。


 カミロの声は、大きいわけでもないのによく通る。お茶を楽しんでいたご婦人方、初老の給仕、ケーキカウンターに立つ少女……皆が息を飲んでいる。

「ええと……仰ってる意味がよく分かりませんが」
「俺が十人目の見合い相手だと言っている」
「カミロ様が、私の」
「ああ」

 再び、場は静まり返った。
 ほら……カミロに周りを見て欲しい。皆が信じられないものを見るような目をして、こちらを窺っているじゃないか。
 突拍子も無いことを言い出したのは、麗しの伯爵令息カミロ様だ。かたやその相手は、居候の元子爵令嬢フィーナ。見守る皆の気持ちは手に取るように分かる。

「ご、ご冗談を……」
「冗談ではない。本気だ」

 フィーナだって知っている。カミロが冗談など言う人ではないということを。では、これは一体どういうつもりなのだろうか。

 カミロの腕は組まれたまま、顔はずっとフィーナへと向けられていた。アイスブルーの視線は、めかしこんだフィーナに照準を定めている。
 せっかく美味しいと評判のケーキを食べているにもかかわらず、全く味がしない。フィーナは黙々とケーキを食べたあと、カミロと一緒にカフェを出たのだった。
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